SUMMIT by WHERE
本セッションはヤフー株式会社(DS.INSIGHT)のスポンサードにてお送りしています。
兵庫県西宮市は、新型コロナウイルス対策として「接触8割減」を目指すため、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)が提供する『DS.INSIGHT』を利用し、ビックデータの活用を開始。その結果、人出の傾向や減少の度合いを数字で「見える化」することができたといいます。
さらに、データ活用の可能性を見出した西宮市は、ヤフーと連携協定を締結。これまで、全くビックデータを活用してこなかったという西宮市は、一体、どんな方法で自治体内部にビックデータを浸透させ、活用しているのだろうか。
そんな疑問に答えるために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「自治体データ活用の今とこれから -課題とチャレンジ- 」について、松浦 修一氏(西宮市政策局政策推進課 施設・まちづくり担当課長)、大屋 誠氏(ヤフー株式会社)、平林 和樹氏(株式会社WHERE 代表取締役)の豪華3名のトークをお届け。
西宮市での取組みを通じて、自治体におけるビッグデータ活用への道筋を探るとともに、自治体における今後のデータ活用の可能性についての展望が語られました。
平林(モデレーター):自治体で新しいことを始めようとすると、内部の理解を得るのに苦労することが多いと思うのですが、西宮市では内部決裁を取る際に、どんな工夫があったのでしょうか。
松浦氏(以下、敬称略):新型コロナウイルスをきっかけに、ヤフーさんが無償で提供を開始したことは、非常に大きかったです。自治体の仕組み上、金額が大きくなればなるほど、手続きが慎重になるのは仕方のないことで、安価であれば、それだけ契約手続きを簡素化・迅速化できます。
松浦:私自身としては、物事を円滑に進めるためには内部のコミュニケーションが最も大切と考えて仕事をしてきたので、今回の案件であれば誰の承認があれば進んでいくのかを予め予測できていました。決裁をあげる前に、各部署のキーマン一人ひとりに説明して回り、理解を得ていきましたね。
あとは、データを必要とする理由は部署ごとに違うので、各部署にとってデータが必要な理由を示した上で、決裁をあげました。特に西宮市がデータ活用に理解があったとか、積極的だったということはありません。
平林:松浦さんが各部署に対して、データが必要な理由をうまく翻訳したことで、スムーズに内部決裁を通すことができたのですね。
次はヤフーの大屋さんにお聞きしますが、これまで西宮市をはじめ、様々な自治体さんとやりとりをされていると思いますが、自治体の「データの使い方」や「自治体が気にするポイント」について、どんな気づきがありましたか。
大屋氏(以下、敬称略):「自治体の仕事」と「データの活用」がかみ合う状態にまでなっていないことが私たちの課題です。つまり、ハサミや紙ほどデータが使いやすいものになっていないのです。
私たちのような民間企業側の努力として、データを活用できる環境を自治体と一緒につくっていくことが必要だと強く感じています。
平林:新型コロナウイルス対策として、データを無償提供する意思決定はどのように進んだのでしょうか。
大屋:そもそも、「“データを本当に使いやすいくするためにはどうするべきか”を、自治体の皆さんと一緒に考えていきたい」という思いが、現場にも、上層部にも共通してありました。その上で、新型コロナウイルスの問題が大きくなるにつれて、国や地方自治体、報道関係からの問合せも増えていて。
「データをもっと活用して、日本をアップデートしていこう」というのが、ヤフーの重要なミッションですので、一部の限られた人ではなく、第一線の現場の方が使えることが大事だと考え、一週間くらいで「これは会社としてやらなければならない」という意思決定があったかと思います。
平林:一週間!? それは早いですね!
大屋:本当に早かったです。そういうタイミングが来たのだと思います。
平林:ビッグデータを持っている企業はたくさんありますが、ヤフーのデータはどんな特徴があるのでしょうか。
大屋:スマホのGPSデータを統計処理したものなので、都会でも田舎でも同じような精度でデータを取っていけるのが特徴です。さらに位置情報の他に、検索情報も加わります。
データ活用をしたい皆さんは、プライバシーに配慮しながらも、統計上のただの数字ではなく、「どんな人が何をしているのか」「どんなニーズがあるのか」を知りたいのではないかと思ってます。ID情報を統計処理しているので、「位置情報+検索」という奥行きのあるデータを提供できるのが、ヤフーのビッグデータの強みです。
こうしたデータを使うことができれば、位置情報だけからではわからない地域の特色やこれから打つべき施策が見えてくるのではないかと考えています。
平林:ヤフーと西宮市の連携協定では、今後どんな取組みを考えているのでしょうか。
松浦:「どういう形でデータを使うか」が今後のポイントだと考えています。たとえば検索ワードを分析することで、「市民が何に困っているのか」「何に関心があるのか」を探り、情報発信の方法や、ツールの検討することもできます。
今回は施策に対して、「“限られた人だけでなく、市民全員が本当はどう思っているか”をビッグデータから掴めないか、一緒に研究しよう」と連携協定を結びました。
連携協定を結んで、データ活用を小さく始めて育てていこうという姿勢を、市役所全体や市民にも示す狙いもあります。今の時点では、決まっていることはなく、ここから一緒にやっていこうとスタートラインに立ったところです。
平林:特定の事業に対する連携協定ではなく、データがどういう施策に活用できるかを考えるために連携協定を結んだということですね。
今後、各自治体と一緒にデータ活用をする上で、大屋さんはどんな活用方法があると考えていらっしゃいますか。
大屋:ヤフーの今の課題は、平常時においてのデータ活用です。大変な状況が起きているときは、何とかして状況を好転させる必要があり、常に状況を把握する必要が生まれるため、比較的データ活用を理由づけすることは簡単です。
一方で、平常時はそもそも「常に状況を把握する意味があるのか」が問題になるケースが多いんです。だからこそ、平常時のデータ活用に理解があって、そこからしっかりと政策につながるような仕組みをつくっていきたいと考えています。
とはいえ、私たちは、自治体の内部の状況がよくわかっていないこともあり、どのような仕組みにすると、データ活用が自治体に定着するかをまずは理解することが一番大事だと思っています。
そのために私たちができることとして、2つのポイントがあると思っていて、1つ目は、新型コロナウイルス対策が状況に応じて流動的に変化していく中で、それを常にウォッチする仕組みを整えていくことです。
2つ目は、今後、絶対に経済対策が必要になりますので、その時投入した税金に対して、どういう成果があったのかを把握するのに、私たちが持っているデータを使っていきたいと考えています。
平林:視聴者からの質問もきているので、大屋さんにお答えいただければと思っています。「ヤフーのデータは、市バスなどの公共交通などの需要予測や、その需要予測からのルート策定にも使えるのでしょうか」ということですが、いかがでしょうか。
大屋:公共交通ですと、福岡県の西鉄グループをお手伝いした事例があります。西鉄グループは、日本で一番バスを多く持っている会社で、1万人規模の住宅地に住んでいる人の移動データから、需要予測を行いました。バス会社は、バスにどこから乗っているかはわかっても、エンド・トゥー・エンドはわからないため、ヤフーのデータが役立ちましたね。
もう少し具体的にお話しすると、「ある路線の乗客数が激減してしまった」という事実から、地域の病院が移転になるからという理由は西鉄グループさんの方でも推測されていたのですが、重要なのは、病院が移転し、乗客数が減っても、路線を廃止にすることはできないということでした。
病院以外の目的でも路線を使っている方は多いので、当時のデータ分析の目的は、移動の需要がある場所が病院以外のどこにあるかを探ること。需要のある場所がわかれば、ルートを少し変更するだけで、より多くの方にバスを使用していただける可能性が広がりますからね。今年の4月に実施した施策なので、効果が出るのはこれからですが、結果が楽しみです。
平林:バス会社は、バスに乗ってくれないとデータがとれないが、ヤフーのデータであればそれ以上のものが取得できるということですね。
大屋:そうです。バスは広い意味の公共インフラで、自治体と非常に近いサービスです。大きな社会的責任を担っている中で、単純に路線を縮小するのではなく、より適正に配置していくという視点は、一つの突破口になると考えました。
それぞれの会社には見えない部分があると思っています。バス会社は、バスの利用状況がわかっても、人の移動を把握することはできません。反対に、私たちはバスの利用状況はわかりませんが、人の移動は見ることができます。それらを重ね合わせて、初めて社会を良くするための答えが出てくるのではないかと思います。
平林:西宮市でも適用できそうですね。
松浦:私はまちづくりの分野が担当なので、そんな人間からすると、人の動きはすごく知りたいところです。どの自治体のまちづくり担当者も、欲しいデータはたくさんありますが、「欲しいデータを誰にお願いすれば得られるのか」「どのくらいお金がかかるのか」がわからないのです。
平林:自治体は単年度予算が原則ですが、民間からすると、単年度ではどうしてもコストが上がってしまいます。中長期であれば、その期間で回収できる金額をシミュレーションできるのではないかと思っていて、サービス導入に当たって、どうやって一緒に取組めばいいかをお聞きしたいです。
松浦:データを継続的に収集し、分析し続けることや、そもそもデータを使うことが自治体の施策に必要であることを深く浸透させる必要があると思います。「データは大事だ」と言われても、どれだけ対価を払うべきかがわかりません。リアルタイムのデータがどれくらい効果があるか判断できないのです。
まずは単年度で小さく活用してみて、施策の立案・推進に役立つことを実感できる状況をつくっていくことが重要と考えています。逆に、データがないと困るという状態になれば、あとはどんな内容で、その対価がいくらなのかという契約上の問題になると思います。
データの有効性に関する認識がないと、二の足を踏んでしまうのは当然なので、まずは小さくはじめ、有効性に関する認識を徐々に広げていくというのが個人的な意見です。
平林:自治体の中で、データがインフラとなる立ち位置をとれたらいいのではないかということですね。
松浦:自治体独自でビッグデータを取得することは不可能ですので、外部に求めざるを得ません。データ活用が役立つことを認識すれば、平林さんがおっしゃる通り、自治体内で、データがインフラになってくると思います。
大屋:地域課題は、ヤフーと自治体だけで解決できるわけでもないと考えています。データ分析に関しても、もっと地域に寄り添っている企業と一緒に考えていく仕組みをつくらないといけないと思います。結局、データだけがあってもダメで、分析したデータに対して、どんな施策を打つかをセットで進めていく仕組みが必要です。
平林:では最後に視聴者の皆さんに対して、松浦さんから「データ活用するにあたって気を付けるべきポイント」や「データ活用を検討している自治体に向けてのメッセージ」を お願いします。
松浦:今回、私自身がデータ活用に取組んだことで感じたのは、「データがあれば、全てが分かるわけではない」ということです。データの重要性を認識した上で、分析するスキルを身に着けて、日々の業務にデータを積極的に活用することが大事だと分かったことはすごく収穫でした。
松浦:データを見ているのは非常に楽しいのですが、データから課題を見つけることはかなり難しいと考えています。課題や知りたいことを明確にした上で、「どこにデータがあるか」「誰にデータを提供してもらうのか」「さらにどうやってデータを活かしていくのか」を考えないと、ただおもしろいで終わってしまいます。
平林:大屋さんからは、「自治体の枠を超えたデータ利活用事例」があればそちらのご紹介と、「データ活用の展開の仕方」という視点から自治体へのメッセージをお願いします。
大屋:自治体の枠を超えた事例は残念ながらまだありませんが、防災や観光といった分野は、いち自治体で考えるのは難しくなってきています。皆さんで協力し合う必要がある中で、同じデータを元に状況を理解した上で、共通言語を使いながら進めていくことが大事になると思っています。少し商業的な話になりますが、別自治体様同士でも、共同購買していただくことで、さらに安くライセンスをご利用いただくこともできます。
平林:最近だと広域でデータ活用を考えている自治体もあるので、共同購入はおもしろいですね。
大屋:手続きは大変かもしれませんが、みんなで考えていくという点ではすごくおもしろい取組みだと自負しています。ご相談があれば、ぜひ私たちもサポートしていきたいと思います。
平林:おふたりとも本日は貴重なお話をありがとうございました!
Editor's Note
本セッションでは、西宮市とヤフー株式会社の連携の事例から、自治体におけるデータ活用におけるポイントを学ぶことができました。
自治体においては、データを導入するにあたって、「何のためにデータを使うか」という目的を明確化した上で、小さなところからまず始めてみて、データの有用性を確認しながら地道に実績を積んでいくことが重要です。
一方で民間企業側においては、ただデータを切り売りするのではなく、課題解決に向けて自治体と一緒に取り組んでいく姿勢や自治体の状況や悩みに応じた柔軟な対応が求められていることが挙げられました。
これからの社会の大きな課題を解決していくためには、自治体や企業が持つさまざまなデータを複合的に活用していく視点が必要不可欠です。そのためには、自治体と企業がどれだけ歩み寄り、一緒に取り組んでいけるかが鍵になりそうです。
TAKASHI KAZAMA
風間 崇志