SUMMIT by WHERE
自分が感動した好きなものについての魅力を他の人にも伝えたい──。
そう思ったことは誰しもがある経験ではないだろうか。
好きな食べ物、好きな映画、好きな人、など伝えたいことは人によって違うと思う。
そこで今回は、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」を開催。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「シティプロモーションと影響力」について、河尻 和佳子氏(千葉県 流山市役所 マーケティング課 課長)、大垣 弥生氏(奈良県 生駒市役所 広報広聴課長)、井上 純子氏(セッション当時:福岡県北九州市役所)、馬袋 真紀氏(兵庫県 朝来市役所 総合政策課)、倉重 宜弘氏(ネイティブ株式会社 代表取締役)の豪華5名のトークをお届け。
後編では、「新型コロナウイルスを踏まえてシティプロモーションはどのように変わっていくのか」が語られました。
倉重氏(モデレーター:以下、敬称略):2014年くらいから「地方創生」の波がきていて、「地域おこし協力隊(以下、協力隊)」も一つの象徴になりました。若者が協力隊の制度を活用しながら、各地で地域活性化に取り組んできたと思うのですが、現在は「アーリーアダプター*1」が出払ってしまったと思っています。
地域側では「協力隊の募集をしても、応募が集まらなくて大変」というお話も聞きますし、実際に協力隊になることを検討している人も「自分のため」「自分の生き方を見つめ直すための手段」に重点を置いている方がとても多い印象です。今後はさらに「地方創生」を目的に地域に訪れる人が減ってくると思っているのですが、このあたりについて馬袋さんはどう思いますか?
*1 アーリーアダプター
イノベーター理論における「初期採用層」のことを指す言葉で、新しい商品やサービスを比較的早い段階で取り入れる人々のこと。
馬袋氏(以下、敬称略):確かに私が協力隊募集に携わっていた5~6年前は、「私たちが地域を活性化させたい」という人が多かった気がしますが、その後は自分らしくどう生きるのか」に比重を置く人が増えている印象です。
倉重:最初は「地方創生」を目的にしていなくても、移住した後に頼られると、どんどん地域にめり込んでいく人もいますよね。いずれにしても「地方創生」というよりは「自分創生」というところがキーワードになって、それをうまく歓喜するのが「シティプロモーション」という感じになってきている気がします。河尻さん、いかがですか?
河尻氏(以下、敬称略):私もそう思います。完全に「人のために」というのは続かないですよね。たとえ、何かやりたいことを行動に起こす動機が、自分以外の理由だったとしても、半径10m以内に自分課題もあると思っていて。人に喜んでもらえるときの喜びは通常の何倍もうれしかったりします。地域で何かやっている人は、人に喜ばれることがこんなにも自分の幸せになるということを体験しているのではないかと思います。
倉重:地方創生自体を直接押し付けてしまうと、尻込みしてしまうので、自分事にもっていき、刺激できればいいですね。
馬袋:それは、若い人だけでなく60代・70代といった全ての人に当てはまりますね。「こうなったらいいよね」という未来を思い描けるような対話の場を持つことが大切だと思います。実際に対話の場を実行する際には、一つの課だけでではなく、まち、市役所など全体として動かしていく必要があるのではないかと思っています。
倉重:井上さんのように体を張る方法も、一つのやり方ですよね。
井上氏(以下、敬称略):河尻さんの「相手が幸せであることが自分の幸せ」という言葉に本当に共感します。私は、皆さんのように経験があるわけでもなく、18歳で結婚し、その後子どもを産んだので、18歳~25歳くらいまで働いていません。いい意味でも無知であったので、無茶振りにも乗ってしまうところがあって。
とはいえ、自分の中で子どもを置いて仕事をしていることに葛藤があり、辛い時期もありました。ですが、TVに出て子どもに見られる仕事をして、子どもに応援してもらえることで、自分の中の「嬉しい」に繋がりました。これが根底のモチベーションになったのだと思います。
河尻:井上さんは「ファンマーケティング」がすごく上手な事例だと思います。「素」の姿でのカリスマ性でファンを引っ張っていく場合、宗教っぽくなってしまうところもありますが、コスプレした上でのファンというのはとてもいいですね。
倉重:「関係人口」という言葉は最近、新聞でも見かけるようになり広まってきたと感じていますが、地域との関わりが強い人のことを「関係人口」と言い始めている印象を受けます。暮らしの中で、この関係人口を増やすことは、ファンマーケティングの考え方に近いところもありますね。井上さんの活動はまさにこの形だと思います。
倉重:新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響は、歴史的にも大きな変化があったと思いますが、コロナを踏まえ、皆さんは今後のシティプロモーションをどうしたいと考えていらっしゃいますか?まずは大垣さんからお願いします。
大垣氏(以下、敬称略):コミュニティ施策は一時的にストップしてしまいましたが、地域に目を向ける人は増えたのではないかと思います。
今までは地域に興味がなかった方から、自治会活動がストップする期間が長引くにつれ道路の雑草やごみが目につくようになったという話を聞きました。近所に友達がいたほうが楽しいとか、近所にちょっと食べにいける飲食店があったほうがいいとか。これは、地域に関心を持たれた証だと思うので、「私も何かできることがあるのかもしれない」という気持ちを後押しできたらいいなと思っています。
倉重:当たり前のことが当たり前でないと気づき、自分たちの身の回りに目を向ける機会になりましたよね。河尻さんどうですか?
河尻:今まではリアルのイベントや体感を通じて、地域の良さを知ってもらっていましたが、コロナにより、できることが制限されたことは課題だと感じています。ただ、これがチャンスであると、思って今はやり方を変えています。
例えば、修学旅行ができなくなった小学6年生のために、オンラインで修学旅行を住民のかたが実施してくださり、この取組みを4社のテレビ局が取材してくれました。住民の方の取組みを情報収集し、外に発信していくことが私たちの一つの役割だと思っています。このように、今まで通りのやり方でなくても、やれることがあるのはチャンスだと思いました。
倉重:地域内で動いている人を地域外に発信することで、大きなコンテンツになるということですね。井上さんはどうですか?
井上:今まで、個人単位でも地域内のお店や場所を紹介してきましたが、コロナを受けて、そもそも「人が来ることをよくない」と思う人がどこの地域でも出てきていると思います。
今は、コロナ情報といった、住民が求めているような情報に発信内容を変えています。行政単位でも観光客を呼ぶ予算というのは削減されており、住民が求めている生活支援の情報などに広報費をかけている印象です。今まではタレントを呼んだ広報に予算をかけていましたが、これからは、予算のかけ方も変わってくると思っています。
倉重:以前、流行ったような「バズる動画」に大きな予算をかけるという発想は良くも悪くも変わってきそうですね。馬袋さんはどうですか?
馬袋:私たちが住んでいるところは田舎なので、マスクもせずに普通に農作業などをしています。大丈夫かなとこっちがドキドキしていますが、その一方で、コロナの影響によって、家族の時間が増え、改めて地域コミュニティの再確認ができたとも感じています。
倉重:コロナ前は、「オーバーツーリズム」など地域に観光客が来すぎてしまうことも問題になっていました。この課題を反省することなく、オリンピックを迎えようとしていましたが、コロナにより今は考えざるを得ない状況になっていると思います。
とはいえ、日本の人口は縮小してしまうことが確実で、特に人口減が激しい地域では、地域内のマーケットに頼り続けることも難しいと思います。外貨獲得と内需のバランスについてはどのようにお考えですか?
馬袋:今回のコロナを受けても、地域の方から愛されているお店は観光客からの外貨分は減ったものの、そこまで打撃を受けていませんでした。
朝来市にとって、観光は大事な産業ではありますが、外部から外貨を稼ぐことに頼ったやり方ではなく、地域の中で地域経済を回していける仕組みが大切だと思いますし、それを応援していく必要があると思っています。
倉重:河尻さんは、どう考えていますか?
河尻:地域内が盛り上がっていると、外からの投資が生まれ、結果的に地域が潤うことがとても大切だと考えています。内発的、外発的なバランスではなく、内発的なプロモーションを行い、内部から盛り上げていくからこそ、外の人を呼び込めるのではないかと思っています。
倉重:最後に内発的な輝きをコンテンツにして発信をしていくというところが今後のシティプロモーションのあり方だと思いますが、今はまだ手がつけられていない部分ではあるものの、やっていきたいと思うことがあれば教えてください。
河尻:今日、ここにいる3人はとても天才的なセンスがあると思っています(笑)ただこのトークを聞いている視聴者の方が「私はできない」と思ってしまったら、それは残念だとも思っていて。今日話したことに対して、目指す到達点は同じでも山の登り方は人それぞれ違っていいんです。私の今後やりたいこととしては、「流山人物名鑑」的に、まちの中のいろんな人や事例をさらに分かりやすく紹介していきたいですね。
大垣:例えばコロナ禍において、デリバリーやテイクアウトの情報やステイホーム中の過ごし方を市のメディアを通して発信してくださったのは、市民PRチーム「いこまち宣伝部」の方々でした。これは、最初から計画できていたわけではありません。行政主導で計画的に進めるより、色々な人が創発的にコトをおこす工作的なまちづくりに可能性があると思うので、繋がりを広げられるように地域の人やコトを発信し、自分も関わってみたいと市内外の人に興味をもってもらうことを進めていきたいです。
井上:私自身は、今まで会えるキャラとして活動をしてきましたが、コロナでイベントがなくなってしまい、今は発信だけをしています。バナナ姫ルナという手段にこだわる必要もないと思っていて、個人でも発信できる時代だからこそ、オンライン上でもどんどん繋がりをつくって、発信ができるような広報をしながら、賑わいが戻り経済が潤うことが幸せだなと思っています。粛々とまちを発信できる活動をやっていきたいです。
馬袋:私は住民の方とお話する機会が多くあり、最近取材した中で移住したご夫婦から言っていただいた言葉が嬉しくて。「移住をしてから、自分がまちの一員である自覚を持つことに喜びを感じた」「近所のおばあちゃんを見ていると、自分も10年後、20年後にこういう暮らしがあるとイメージできた」って言っていただいたんです。
私も一住民として活動している中で、自分自身が活動して「楽しい」と思えることをすごく大事にしています。人が楽しんでいるところって面白そうに見えるし、私自身、住民の皆さんと一緒に活動して一緒に作り上げていきたいので、自分が一人で作り上げたものを「はいどうぞ」と渡すのではなく、仕事でも地域活動でも一緒に物事を作り上げていき、作り上げる中で感じるワクワク感を現在進行形から発信していきたいなと思っています。
倉重:今回のトークでは、シティプロモーションを行う皆さんがこの仕事を楽しんで行っていることが伝わってきました。楽しんでいるからこそ、周りの人たちが自然と地域に関わりたいと思い始めているのではないかと思います。そしてその自主性が新たなシビックプライドの醸成に繋がっていくんだなと感じました。改めましてありがとうございました。
Editor's Note
今回、このトークセッションを聞かせてもらい一番感じたことは、倉重氏が最後におっしゃっていた言葉でもあるが、登壇された方が仕事を楽しんでいるということだった。
このお仕事は、まちを心から愛してしないとできないと思うし、好きだからこそまちにかける熱量が違うのだと思う。
まちに限らず何かの魅力を誰かに伝えるとき、一番大切なことは自分がまず心から楽しむこと、そして綺麗な言葉でなくても楽しんでいることを相手に伝えるということが大切であると感じた。
AZUKI KOMACHI
小豆 小町