SUMMIT by WHERE
自分が感動した好きなものについての魅力を他の人にも伝えたい──。
そう思ったことは誰しもがある経験ではないだろうか。
好きな食べ物、好きな映画、好きな人、など伝えたいことは人によって違うと思う。
そこで今回は、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」を開催。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「シティプロモーションと影響力」について、河尻 和佳子氏(千葉県 流山市役所 マーケティング課 課長)、大垣 弥生氏(奈良県 生駒市役所 広報広聴課長)、井上 純子氏(セッション当時:福岡県北九州市役所)、馬袋 真紀氏(兵庫県 朝来市役所 総合政策課)、倉重 宜弘氏(ネイティブ株式会社 代表取締役)の豪華5名のトークをお届け。
前編では、「各地域がどのように地域住民を巻き込み発信をしているか」語り尽くされました。
倉重氏(モデレーター:以下、敬称略):今回は『シティプロモーションと影響力』がテーマということで、ユニークで効果の高いシティプロモーションをされている方をお招きして、シティプロモーションの本質に迫れればと思っています。
まずはお一人ずつ自己紹介をしていけたらと思うのですが、まずは私から。今日、僭越ながらモデレーターをさせていただきます『ネイティブ株式会社』代表取締役の倉重と申します。地域マーケティングの専門企業で、地域のメディアの運用や自社メディアを使い地域の情報を発信しております。
河尻氏(以下、敬称略):千葉県流山市役所の河尻 和佳子と申します。自治体では珍しいマーケティング課におり、まちの魅力を発信することで定住してもらい、少子高齢社会でも発展しつづけるまちをつくることをミッションとしてやってきました。おかげさまで、全国でも稀有な人口増を達成しております。最近では、まちの「中」の魅力を発掘していき、まちの「中」で熱量をあげることを行なっています。
大垣氏(以下、敬称略):奈良県生駒市役所の大垣弥生と申します。生駒市は県外就業率全国第2位で、大阪のベットタウンとして発展してきた住宅都市です。昨年できた新しい総合計画には初めて「ベットタウンからの脱却」が記載されました。まちのイメージをあげていくことと同時に、まちづくりの転換も推進できるプロモーションを実施したいと思っています。
井上氏(以下、敬称略):福岡県北九州市役所の井上純子と申します。北九州市は人口95万人の政令指定都市です。2015年から観光経済局観光課に配属され、「予算のない中で話題づくりをするにはどうしたらいいか」を考える中で、自ら「バナナ姫ルナ」というコスプレをしてPRをしたところ、一次メディアで150回以上掲載され、シティプロモーションに貢献をさせていただきました。今は観光経済局観光課ではありませんが、個人でSNSを通して活動をしています。
馬袋氏(以下、敬称略):兵庫県朝来市の馬袋真紀と申します。他の皆さんとは違って、人口3万人の市で生まれ育ったまちの職員で、市民の皆さんと一緒に「お互い助け合いながら地域づくりを進めていく」という部分を担当しています。現在は、総合計画担当として計画策定をしており、1人で何役もやりながら仕事をしているような状況です。
倉重:4名の登壇者の皆さんがこれまでどんな活動をしてきたのかをお話してもらいましたが、もう少し詳しく聞いていきたいと思います。
事前の打ち合わせの中で、「シティプロモーションの中でも何をゴールにしているか」というテーマが出ました。一言に「プロモーション」と言っても、その意味は多様化していると思います。このあたりの話は非常にユニークで面白いと思いましたので、どういうところに重きを置いているか、改めて聞いていきたいと思います。河尻さんいかがでしょうか。
河尻:そうですね。私自身は、自治体の活動は「KPI」では測りづらいものだと思っています。流山市役所も含めて多くの自治体が「人口増加」をKPIにしていますが、自治体の存在意義は、住民の幸せを叶えることだと思っています。
倉重:流山といえば「母になるなら、流山市。」などのプロモーションを行なっておりますが、あえて「子育てするなら、流山市」にしないように意識をしたというお話もあったと思います。河尻さんのおっしゃる「住民の幸せ」というのは直接的に施策に落としづらい部分かと思いますが、流山市で意識して行なっていることを伺いたいです。
河尻:子育て環境を整えていくのは、人口ピラミットを整えていく上での手段でしかありません。暮らしの満足度といったベーシックな基盤はもちろんのこと、このまちで自己実現もしたいと思える舞台をつくりたいです。そういったものを叶える手段として「子育てするなら、流山市」ではなく「母になるなら、流山市」という風に考えています。
倉重:生駒市の場合も伺いたいです。大垣さんはいかがですか?
大垣:「このまちで暮らしてよかった」と思えるきっかけをつくりたいと思っています。生駒市は「共創」をキーワードにまちづくりを進めていますが、地域を自分事化するって難しいですよね。例えば、いきなり「地域活動をしてください」と言っても、急に始めてもらえる確率は低い。だからこそまずは「地域に関わるって楽しいんですよ」と、最初の一歩を踏みだしてもらえるような情報の編集・発信がプロモーション担当の大切な仕事の一つです。
倉重:地域に住民が参加をすることは、ハードルが高いと思いますが、具体的にはどんなアプローチをされているんですか?
大垣:私が広報紙作成を担当していたころに実施した読者アンケートで「知りたい情報はなんですか?」と聞いたら、「地域にどんなお店や教室があるか」が1位だったんです。生駒市に住んでいるけれど、まちのことを知らない人は意外に多かった。だから、住民の方目線で生駒市の魅力を発信していく『いこまち宣伝部』を立ち上げたんです。
『いこまち宣伝部』に参加される方は、生駒を発信したいというより、生駒を知りたいという思いで活動されているので、知り合いが増えてまちをより好きになったり、まちでやりたいことを見つけたりして卒業されます。昨年までは生駒山の中で実施する『IKOMA SUN FESTA』というアウトドアイベントなども担当していましたが、主に市内の方に生駒を知ってもらい、まちに関わるきっかけづくりをしてきました。
倉重:社内広報のような感じですね。井上さんは、プロモーションのゴールを何にされていますか?
井上:私の場合は、シティプロモーションの担当部署ではないので、予算もなく、お金をかけていないので、成果も特に求められませんでした。行政は前年度に予算が決まってしまうので、その年に何か予算をつけて活動をすることがとてもしづらいんです。バナナ姫ルナのコスプレについては、「汗だけかけば予算をかけずにすぐできるね」ということで始まりました。成果を求められていない分、ゆるく活動はできました。
ゴールについては、登壇者の皆さんが言う通り、自治体なので「住民の満足度・幸せ」だと思っています。色々な方から「この無茶な仕事をよくやるね」と言われますが、市内外から直接応援メッセージなどをもらえることがモチベーションに繋がっています。
「地元にこういう職員さんがいてくれて嬉しい」など、自分のちょっとした活動が地域の皆さんに幸せに繋がっているということが嬉しくて、この活動が続いていたところがあります。この点からも、登壇者の皆さんと同じように「住民の幸せ」がゴールなのかなと思っています。
倉重:活動に対して住民から直接反応を得ている部分は、先ほどの大垣さんの話とも共通点があるかもしれませんね。馬袋さんはどうですか?
馬袋:私も登壇者の皆さんと同じところです。私が住んでいる潮来市は人口が3万人を切っていて、今から人口が増えることはなかなか見込めない状況なので、「今住んでいる人がいかに幸せが実感できるか」を考えています。
まちのシティプロモーションの考え方は、「シティをプロモートさせていくことは、まちを前進させていくことなので、住民の人とどうまちを作っていくか」。朝来市に住む一人一人の暮らしが、いきいきと自分らしく暮らせて、楽しく幸せであればあるほど、まちに魅力が増していくと思っています。
住民へのアンケート調査の中で「自分のまちを市外の方へ勧めたいか」という指標のアンケートを取っています。
これは、「自分のまちのことを自然に話したくなるということは、自分のまちが楽しいから」という考え方に基づいてです。
地域づくりを考えていく中で、「地域のために」といった主語で考えるのではなく、「私」「私たち」を主語にした自己実現的なイメージを持たせて進めています。住民が主体性を発揮し、何かをやりたいと思った時に背中を押してあげられるような仕組みを作ることが自治体の役割だと思っています。
倉重:シティプロモーションは、「外」に向けて情報発信をするというのが一般的なミッションだと思いますが、今回の皆さんのお話では、直接的に「外」に発信をしているというより、住民の方にスポットを当てることで間接的に発信を行っていると感じました。その点については、河尻さんいかがでしょうか?
河尻:例えば「自分がモテる」と自分で言ったとしても、誰も信じませんが、「あの人はモテるらしい」と他の人に言ってもらうと、それがブランドになり信じる人が出てきますよね。
それと同じように、自治体の人が言っても響かないけれど、まちの人がまちの魅力を伝えると実感がこもって相手にも伝わると思います。住民の方一人一人には、その人ならではのオリジナルストーリーがあって、それが語られるほど共感されます。私も頑張ってはいますが、大垣さんはそういうところがとても上手だと思います。(笑)
大垣:顔の見えるフラットな関係をつくることや、巻き込むのではなく巻き込まれることを大切にしています。楽しんで地域に関わられている方は、地域をポジティブに語られますし、それが積みあがっていくことで地域のイメージはあがっていくように思います。
「自分のまちを市外へ勧めたいか」という「推奨意欲」は、生駒市でも一つの指標にしているのですが、この前、会議の中で、「自分のやりたいことをしている人ではなく、まちのためになにかしてくれる人を増やすのが行政の仕事ではないんですか?」と聞かれてうまく答えられませんでした。このあたりについて馬袋さんにお伺いしたいです。
馬袋:年配の方の考えと、50代以下の方では考え方が違うと思うので、お互いを認め合うことが大切だと思います。地域づくりの場合は、「自分たちの暮らしのなかで、自分たちの暮らしの延長にあるまちがどうなったら良いな」という想いが、アクションにつながるものになると思うので、「まちのために」という部分だけ切り取り、その感覚を若い人に押し付けてはいけないんです。
また、世代間の考え方を翻訳できる橋渡し的な存在がとても重要になるとも思っていて、例えば、「若者が始めたことがどんなどんな意義があるかわからない」という年配の方にもわかりやすい言葉で説明をしていくことで「若者の活動を応援する」という雰囲気になっていくと思い、行動しています。
Editor's Note
もしかすると、「市役所」は私が想像している以上に、自分に寄り添ってくれているあたたかい存在だったのかも。そんなことをお家で視聴しながら感じていた。
東京生まれ、東京育ち。小学生の頃から12年間、区をまたいで通学をしていた私は、「自分の住むまち」について知る機会もなくそこまで強い愛情があるわけではなかった。
セッションの中で、プロモーションのゴールについてのお話が出たとき、4名の方が共通して「プロモーションのゴールは住民の幸せ」ということだとおっしゃっており、様々な方法で住民を巻き込んだプロモーションを実施されていた。
全く違う地域であるにも関わらず、ゴールは一緒なのかと知ったとき、私は、自分の住むまちの区役所の方が、熱量を持って発信されていたことを受け止めることさえしていなかったのではないかと気づいた。
私も自分の住むまちの発信に携わりたい!という気持ちが強く芽生え、今も書きながらうずうずしてくるくらい、今回のトーク内容は私にとって気づきの多いセッションだった。
AZUKI KOMACHI
小豆 小町