SUMMIT by WHERE
アナタは今、公務員という仕事に誇りを持って日々を過ごしているだろうか。
世間のイメージでは、公務員は「安定」「無くならない仕事」といったポジティブなイメージがある一方で、「お堅い」「人事異動に振り回される」「大変そう」といったネガティブなイメージの側面を持ち合わせている職業ではないでしょうか。
しかし、中には公務員という枠に囚われず、自身の信念の元、誇りを持って、たくさんの人を巻き込みながら、まるでベンチャー企業のように新しいこと・前例のないことに挑戦している公務員が存在します。
公務員なのにベンチャーみたいな働き方って、一体どんな人たち?!
そんな疑問を持つアナタのために開催した、地域経済を共に動かす起業家のためのサミット「SUMMIT by WHERE」。第1回目は、完全オンラインにて、日本各地30箇所以上の地域から、第一線で活躍する方々が集まりました。
中でも本記事では、「公務員のキャリア形成と働き方」について、山田 崇氏(長野県塩尻市役所 地方創生推進係長)、田中 佑典氏(総務省)、守時 健氏(punctual inc. 代表取締役)、井上 貴至氏(内閣府 地方創生推進事務局)、黒瀬 啓介氏(LOCUS BRiDGE 代表)の豪華5名のトークをお届け。
日々挑戦し続けているからこそ、持ち合わせている悩みや仕事観とは。
黒瀬氏(モデレーター:以下、敬称略):ここからは、皆さんご自身のキャリアについてお聞きしていきたいのですが、まず2020年4月に市役所を退職して起業された、守時さんはどう考えていますか?
守時氏(以下、敬称略):僕や会社にとっては、ファンの皆さんが全てなので、「あいつ調子に乗って公務員辞めて起業したんだ」「市役所が嫌になって辞めたんだ」と思われるのが嫌で、半年くらい気にしてました(笑)
登壇者の皆さんが仰る通り、公務員じゃないとできないことって絶対あると思うんですけど(詳細はぜひ前編記事をご覧ください)、対価は絶対必要だと思っています。フリーランスだったら、タダで受けますよ〜とも言えますが、それは会社ではできないことです。
地元に儲かる企業が無いと、地域は立ち行かなくなってしまうので、儲かる企業・地場産品をいろんな会社さんと地元でつくって日本を変えていけたらと思っています。
田中氏(以下、敬称略):僕は、今のポジションが結構居心地いいんですよ。行政の中と外、それぞれでできることがあった時に、両方に顔を突っ込めるのはすごくいいなと思っていて、自分のポジションを活かせている実感があるのでそんなに違和感は持っていないです。
ただ今後、行政の外でできることが、行政の中でできることよりも増えてきた時に、「自分がどういうスタンスを取るのか」は、自分の中で仮説を持っておく必要があると思っています。僕が一番なりたくないのは、40歳を過ぎて、行政の外にやりたいことがあるのに、結局外に出られなくなってしまって、組織に固執する人間なんですよ。自分の中のモットーに従って、いつでも転職できるけど転職しない人材、行政の外でも全然やっていけるけど、中でできることがあるから中に居続ける人材になりたいと思っています。僕から見ると、山田さん・井上さんはそういう人材だと思うんですよね。
黒瀬:僕は市役所を退職する時、お世話になった先輩方に一人一人挨拶しに行ったら、皆さん悔しそうに「俺は結局、平戸市役所の看板にすがっているんだよ。じゃないと今後やれないから。思いがあるなら思い切って出た方が良い。」と仰っていたことがとても印象的で。苦悩する中でも足掻いている感じがあったんです。山田さんは今後、後進も育てていく立場になってきていますが、いかがでしょうか?
山田氏(以下、敬称略):後進を増やすつもりはないんですよ。「山田 崇」みたいなものは(これ以上)いらなくて。そうは言っても、僕が初めて空き家を借りたのもたった8年前なんですよね。当時は空き家が問題になりかけていた時期でしたが、今はもっと別の問題が浮き彫りになってきていて、そっちに目を向けるべきなんです。具体的なことを真似しろではないんですよね。
「前例がないけど何かやるんだ」「自分たちで自分たちの町を作っていくんだ」という若者は大歓迎で、あんまり育てるということはしません。
あと「公務員を辞めない」「塩尻市から動かない」って決めてみるのも一つの方法かなと思っています。もちろん、東京や福岡とかの方が便利で、やりやすい部分もありますが、1,000年前から誰かが塩尻市に住み始めているんですよ。
「動かない」と決めれば、「じゃあどうするか」って自ずと考えるしかなくなるんです。課題を解決するイノベーションの種って、不便益から始まるんじゃないかって思っているんですよね。だからこそ、不便益を手放しちゃいけないんだなって思っています。
多分、400年前の人たちの方が暮らしにくかったと思うんですよ。特急あずさもないし、Wi-Fiもないし。飛脚が運んでくるたった何回かのチャンスから、知恵をもらって、交流をして、新しい創造を作っていたことを、現代の文脈でどんな風にできるのかを考えずに手放すと、先人の方々に申し訳ないし、ここで止めちゃいけないなと思っています。
山田:さらに言えば、100年時代で考えれば、公務員は60歳になったら、強制的に退職させられて、そこから健康であれば40年近く働かなければならないんですよ。それまで公務員という1つの仕事しかしたことがないのに、60歳から新しい仕事を始めるだなんて、めちゃくちゃ怖くないですか? だったら、土日の休みにお金を払ってでもいろいろなことを経験しておいた方がいいですよ。僕は逆にそれをやらないことが怖いんです。
都会の人たちと仕事で関わりを持つと、お互いがどう思っているのかを知ることができるので、「お金を貰わなくても、行きたいと思える地域はどんなところなのか」「お金以外の対価で地域が返せるものは何なのか」を考えるキッカケにもなるので、ここからイノベーションが生まれることもあります。「辞めないと決める」ことから始まる、新しい働き方やキャリアがあるんじゃないかと思いますね。「ジレンマ」を抱くのは、本来の正しい姿。大切なのは、ジレンマを良いエネルギーに変換する「自分なりの方法」を見つけること
黒瀬:やりたいことがやれず、モヤモヤ・ジレンマを抱えている人へのアドバイスはありますか?
田中:「モヤモヤを抱えていること」が、本来の正しい姿だと思います。重要なのは、やりたいことがあってもできないジレンマを抱える中で、そのジレンマを良い方向へ持っていくエネルギーをいろんな人と一緒につくっていくことだと思っていて。僕が山田さんや井上さんからアドバイスを貰って外の世界に出た時みたいに、公務員全体の中にも、良い方向へエネルギーを向けている人たちが一定数いるのであれば、そのモヤモヤを良い方向に持っていける空気づくりが出来ると、イノベーションの種がたくさん見つかるんじゃないかなと、僕自身は思います。
黒瀬:井上さんはいかがですか?
井上氏(以下、敬称略):いつかは必ず自分の時代が来ると思っています。東日本大震災以降、ずっと人事に小さな市町村へ行きたいと言い続けていました。言い続けていれば、いつかチャンスはくるなと思いますし、上司はいずれみんな辞めていきます(笑)。
1つの仕事を真剣にやっていると、思わぬものが見えてきたり、繋がってきたりして、兼業や副業でしていたことが本業に繋がることも今後は今以上に増えて、垣根が無くなってくると思います。僕の場合は、それでもモヤモヤする時は、柔道ですね。
黒瀬:柔道??
井上:モヤモヤしていると、いつも柔道で背負い投げしている後輩に、逆に投げられちゃうんですよ。全身運動をして、相手と向き合ってリセットする時間を作ることが大事だと思います。
黒瀬:柔道がおすすめ、良いですね(笑)ありがとうございます。守時さんはいかがですか?
守時:市役所にいた時の市長・上司は割とイケイケだったので、やりたいことができなくてモヤモヤしたというよりは、「もっと面白いことしろ」みたいなノリがありましたね。
僕の場合は、市役所内でというよりも、例えば、ふるさと納税で絶対事業者さんが儲かるチャンスがあった時に、市役所より事業者さんが取りに行かないことがあったんですが、その時は、何で?ってモヤっとしたことはあります(笑)
黒瀬:守時さんの上司の方や周りの方を何人か知っていて、そこが山田さんと重なるなと感じるところがありまして。特に山田さんは、周りの皆さんがサポートして、チームとして機能しているなと感じていますが、何でこういうチームができたのか、コツはありますか?
山田:まず、「みんな」っていうマジックワードの数を定義するようにしています。塩尻市役所には職員が569人いますが、その「みんな」がサポートしてくれることはありえないので。最初に始めたのは2011年で、毎月第4木曜日の18:00から3時間、ワールドカフェをやる「しおラボ」。最初は17人のメンバーで、50ヶ月連続で開催しました。
「イノベーター理論」というものがあるんですけど、何かをやる時のイノベーター(革新者)の割合って全体の2.5%で、よく分からないけど良いねって応援してくれる人を足したとしても全体の16%、6人に1人なんですよ。
新しいことや関心があって、「ちょっとやってみたいな」っていう時に、賛同してくれたり、協力してくれたりする「みんな」は、全体の16%くらいの規模感だったんだなって、「しおラボ」の活動を通じて気付きました。
山田:ある講演で、僕の上司を登壇者に呼んでもらった事があったんですが、それがすごく良くて。僕だけが話しても「結局、山田だから出来たんでしょ」って受け取られてしまうことがたくさんあるので、「じゃあ上司の目線からどう思っているのか」を話して貰ったんです。
その時初めて知ったんですが、上司は町長や副町長から「山田はマネジメントするな」って言われているそうです(笑)。「山田は、チームとしてフラットな関わり合いを持って、自分たちと同じ方向を見ている感覚を持っている」「山田にしかできないものがあるといことをチームメンバーが認識している」からと。
公務員として、しなくてはいけない仕事もありますが、そこはチームで補うようにやってくれていて、「全て山田が正しいわけではないけれど、いろんなことをやる中で、すごく失敗もあるけれど、でもその中の何か1つがキッカケになって、新しい事業やプロモーションになっているのは確かだから」と言ってくれていました。
個人的に言いたいのは、自分がやろうとしていることはオープンにした方が良いということです。基本的にnote書いたって、Facebookにに上げたって、Twitterで呟いたって大丈夫、ほとんど誰も見てませんから。だけど、例えば3年後にムーブメントになった時、3年前から分からないながらに行動し続けた人になるんですよ。
全員が納得しなくても、2.5%をみんなという範囲でやっても良いし、16%のアーリーアダプターまでをみんなという範囲でも良いので、とにかくアクションした方が良い、公開したほうが良いんです。大丈夫、誰も見ないんで。
黒瀬:ありがとうございます。何かをする時って、どうしても内に秘めがちですが、ちょっと発信することでたまに一緒にやってくれる人が見つかったりすることもありますよね。
僕は公務員時代に頻繁に泣いて、本当はこんなことがやりたいんだって上司に話していたなと知らないうちに、やりたいことを言葉にしてたんだなって思い出しました。今は発信自体、すごくやりやすくなりましたよね。
黒瀬:あっという間に終了の時間が迫ってきました。最後に、登壇者のみなさんから、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。
守時:公務員って、何もできないように見えて結構いろいろできるので、やりたいことをやったらいいと思います。時代も結構変わってきていて、1つのTweetで◯億円稼いだとか普通にあり得るので、発信していくことが大事だと思っています。。
田中:公務員という枠組みに自分を押し込めていくのではなくて、自分自身が新たな公務員像を定義していくというスタンスが大事で、公務員自身も個が輝くようになるといいなと思います。必ずしもメディアに出て目立つとかではなくて、自分自身が一番活躍できる場を探していくということが出来ると、幸せに働ける公務員が増えていくのかなと思います。
井上:発信するのはめちゃくちゃ大事で、僕も現役の若手官僚で初めて実名でブログを始めました。いろいろ言われることもあるんですけど、ひがむ人ばかりじゃなく、純粋に応援してくれる人もいて、発信する中で仲間ができたり、気付きがあったりするので、どんどん発信したら良いと思いますね。公務員はクビにならないので、こんなにチャレンジングな仕事はないなと思っています。
山田:僕自身が「誰か・何かのせいにしないことをやっていきたい」と思います。国の制度とか人口減少とか、今回だと例えば新型コロナウイルスとか、何かのせいにできることはたくさんあります。
僕自身も今年はコロナの影響で多くの変化を余儀なくされましたが、仲間と「1個だけでもいいからコロナがあったから良かったっていう未来を作りたいよね」って話したんですよ。起こったことは変えられないけど、これから自分たちが行動する未来で、起こったことに意味は付けられると思うんです。
正解がない世界だからこそ、最初は小さくでも前例をつくっていくことが大切です。ただぼーっとしていても、前例をつくるために動いていても、今という時間は流れ続けます。同じように時間が流れるなら、私は先に一歩踏み出してみたいなと思っていて。井上さんも先ほど仰っていましたが、民間企業の方は利益を出して、新しい事業に繋げたり、会社の向上に繋げていくことが当然なんですけど、私たち公務員は解決出来なくても市民に向き合うことが出来るんですよね。
発信については、もう少し具体的にお話しすると、考え方を発信せずに、状況を記録して公開するだけでも良いと思います。なぜなら、今興味・関心のある人はほとんど自分から検索するから。プッシュ型のものって嫌がられるので、関心を持った時にWebの中にその事実があるということが大切で、今それが注目されないのは、新しい(まだ認知されていない)からなので、まずは、勇気を持って公開だけしておくことをおすすめします。
Editor's Note
いかがでしたでしょうか?
全国で活躍する公務員の皆さんのお話を通じて、「アレ?公務員って思っていたものと違うな?」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
僕らを取り巻く環境が急激に変化する世の中で、公務員に求められている役割も大きく変化していて、公務員を仕事とされている方々も気付き始めているのではないでしょうか?
転職が当たり前で、流動的にワークスタイルを変えていくことが珍しくない人生100年時代、自分自身の中の絶対に譲れないものを明確にされている5名の登壇者の考え方が、皆さんのこれからのキャリアの作り方のヒントになればと思います。
YOSHIYUKI TANAKA
田中 義之