JAPAN
日本全国
日々を懸命に生きること、それは都市も農村も変わりはない。
一見、直接的な繋がりはないように見える都市と農村。でももしそこに「農」という共通のキーワードを敷いてみたら、どんな広がりが生まれるのだろうか。
今回は、「農あるライフスタイル。幸福度が高まる農業の可能性と実力」をテーマに、井本 喜久氏(株式会社The CAMPus BASE 代表取締役)、松本 純子氏(農林水産省大臣官房広報評価課広報室 広報企画係長)、高橋 博之氏(株式会社ポケットマルシェ 代表取締役)、高橋 邦男氏(こゆ地域づくり推進機構 執行理事)がセッションを実施。
彼らが見据えるこれからの「農業」とは、一体どんなものなのだろうか——。
邦男氏(モデレーター:以下、敬称略):実は昨日、「SHARE by WHERE」の全く違うトークセッションに参加していて、企業×地域でいかに面白いことを作っていくかという話をしました。
その中で、今の時代は「嘘がつけない時代だよね」って話になって。人の本質と本質がようやく「見える化」して繋がる時代になる中で、まさにいもっちゃん(井本氏のあだ名)もそこを感じていると思うんですがどうでしょうか。
井本氏(以下、敬称略):「嘘がつけない時代」というのはめちゃめちゃ感じます。7年前に南アフリカにあるナミビア共和国に行った時の話ですが、そこで2,000年間暮らしが変わっていない、身体に「オカ」という泥を塗って生活しているヒンバ族に会ったんです。
彼らが言っていたのがまさしくそれでした、「このコミュニティの中で嘘なんてつけるわけないだろ!」って。2,000年間暮らしが変わっていない人たちが「嘘なんかバレるに決まってる」と言っています。
テクノロジーは進化するけど、実は一周回って人間が本当に大切にしている “基本” に戻してくれていると思うんです。例えば、テクノロジーの進化が進めば進むほど、振り子の原理のように、皆さん自然を求めますよね。
まさしく今「嘘がつけない」、「嘘なんかついてる場合じゃない」。みんな何を考えているの? 何を大切に生きているの? を、当たり前のように言い合おうよということなんじゃないでしょうか。
井本:自分の考えていることを当たり前に言い合う世界には、ファシリテーションする力が必要なのではないかとも思っていて。地域で「じゃあみんなしゃべってみて!」って振ってくれる誰かがどのくらいいるのか。どうやって世の中に上手く発信していくのかが「BUZZ MAFF」等の役割だと思うし、生産者の声をいつも集め続けている「ポケマル」のサービスだって愛があるでしょう?
これからは、例えば「絆マーケティング」とでもいうか、仕組みばかりを作って終わりではなくて「絆」をどれだけ作れるのかが大事で。ポケマルは絆を、みんなの想いを積み上げていますが、これだって一周回ってアナログなことで、これからど真ん中にやってくることだと思う。
邦男:僕の身近にいる農家さんは「嘘ついたら野菜は育たない」とよく言っています。「嘘をついたら、ついたなりの野菜の出来になる、だから嘘なんかつけない」と。そういうところを見ると、一番本筋の生き方をしているのが農家さんなのかなと気づかされます。
今日のテーマは「農あるライフスタイル」で、「絆」って言葉は漠然としているかもしれませんが、「嘘をつかない関係」「愛のある関係」でかみ砕くと一番しっくりきますね。そのあたり、ライフスタイルを実践しているまつじゅんさん(松本氏のあだ名)はどうですか?
松本氏(以下、敬称略):絆って本当に大事だなって思います。ポケマルはよく利用していますが、買った後に写真を送るとほぼ100%、生産者からメッセージがきます。今はそれが普通だけど、私は20年くらい前のアナログなガラケー時代から、農家さんに野菜をもらったら携帯で写真を撮って送って、それを周りに見せびらかすようなことをやっていましたよ。今はそういった仕組みができてきていて、絆づくりってそれに似ているなと思います。
松本:急に話が変わるんですけど、私、サウナが大好きなんですよ。井本さんの本で「サウナと水風呂の関係性は、都市と農村の関係に似ている」って言ってましたよね。まさに絆って、都市と農村の間柄かなと思っていて。
私はサウナーなんですけど「水風呂のないサウナなんてありえない」「サウナのない水風呂なんてありえない」と思うんです。都市にとって農村はなくてはならないもの、農村にとっての都市もそうですよね。私は田舎から上京してきて5回転勤しているので、都市と農村の便利さと豊かさは身に沁みてわかっています。
ちなみに私の夫は東京生まれで、「『東京に疲れて田舎に帰りました』って聞くといつも悲しい」って言うんです。私としては「都会に疲れた」っていうのも都会の悪口のような気がします。都市にだっていいものと相容れないものがあるし、そこにも絆がありますから。
井本:都市と農村をかき混ぜるんですよ。かき混ぜ棒(=博之氏のこと)がここに歩いています。
松本:今、博之さんは歩いていますよね。空が見えてるんですけど(笑)
博之氏(以下、敬称略):かき混ぜ棒でーす(笑)まつじゅんさん、ありがとうございます。まつじゅんさんが喋ったことが鏡に映った自分を見ているみたいで、「本当にそう!」と思って聞いていました。
「かき混ぜ棒」って言葉が面白くて。かき混ぜると、分かれていたものが渾然一体となるんですよ。だから僕は「都市と地方」っていう言葉もなくなるくらいに、都市の人が地方に来て、地方の人が都市に行って、という関わりになるといいと思っています。
例えば水や空気を育んでいるのは山で、その山に手をかけている人が地方にいる。地方の人が使っているテクノロジーのサービスは、都市にあるビルの中で人が一生懸命作ったサービスだったりする。お互いにそれが見えれば、「ありがとう」って普通に人として感謝を伝えたくなるじゃないですか。今まではそれが見えなかったから、売り手と買い手が牽制し合って、不幸な関係だっただけで、ちゃんと顔が見える形で結ばれると、売り手と買い手の関係から人と人との関係に変わります。
博之:人間って「人の間」って書きますけど、ITの普及でその「間」がどんどんなくなってきていると思うんです。その反動で、コロナ禍では「関わりの大切さ」が世界的に叫ばれています。そうなると全ての消費者や生産者が言う「ありがとう」という言葉も、自分が逆の立場に回ったときに言われる側になるんですよ。例えばまつじゅんさんは国民に対して農林政策とか、農林水産業としての行政サービスを提供しているから、そこで「ありがとう」を言われる側になるみたいに。お互いに「ありがとう」を言ったり言われたりする関係になったらみんなハッピーですよね。
井本:それは最高の関係です!今までは「仕事のために暮らしていた人たち」があまりにも多すぎた。だけど本当は暮らしの方が主であるべきです。今、コロナ禍のタイミングで「仕事よりも暮らしの方が大切」ということに多くの人が気付き始めています。
「日本は子どもたちの自殺者が多い国」と博之さんがよく言っていますが、その解決策の1つは「農」だと思うんですよ。「種」と「土」と「鍬」があれば生きていけることをメッセージしたいし、それを伝えることでいつでも、誰でも、最小単位に戻れる勇気が湧くと思うんです。都市で生きている人たちも、このことに気がつけば「自分たちはいつでも生きていける」という自信になるし、農村も「食」を提供することでそういう人たちを応援することに繋がっていく。
都市に暮らす人たちは、都市に暮らしているからこそのファシリテーションパワー・マネージメントする力が備わっているわけです。だから都市の人たちが「農村でこんなことやろうよ」ってメッセージすれば、農村で生きるものがあるかもしれないし。ますます都市と農村をかき混ぜたいなって思っています。
博之:仕事と生活の話ですが「仕事はするけど生活してない人」が多くないですか?仕事で稼いだお金で生活を買っている、すなわちそれが「消費者」ってことですが、これだけモノがあふれて成熟した社会だと刹那的な喜びというか、それだけだと飽き足らない人たちが増えているような気がします。
そもそも生活とは、自らを取り巻く環境に主体的に関わって、自分の暮らしを楽しくしていくこと。人生の醍醐味なんですよ。地方だと仕事と生活が接続している人が多い。そこに都市住民も間接的に関わって参加していくと、生活の主役の座にもう1回座り直すことができる。その先生が、地方の生産者になると僕は思っています。
邦男:農家さんとお話をしていると、暗い話になることってないですよね。僕らが農家さんと仕事するために畑に行って帰ってくると、めっちゃエネルギーもらいます。野菜や土と向き合っている人とお話をすると、決して饒舌にお話をされる方だけではないけど、僕らの方がチャージされている。これこそが本質的な生き方に紐づいているような感覚があります。いもっちゃんは、どんどんそういう、本質的な生き方をする人を育てていこうとしていますよね。
井本:まつじゅんさんも感じていると思いますが、「ゆるふわ」って言葉が出てくること自体、時代が動いているんです。暮らしを大切に生きることに、国もフォーカスしようとしていますね。
The CAMPusでは、「これからは小さい農家の生き方だ」というメッセージを送っていて。今は、大量生産・大量消費で右肩上がりが素晴らしい時代じゃなくなっている。だから、例えば少量多品目で野菜を作って顔の見える相手とだけ取引をする。「足るを知る(者は富む)」じゃないけど、子育てがきちんとできて、自分たちの暮らしをデザインしていける、そのスタイルが確立できれば循環していけるからそれで十分じゃない?っていうのが僕の考えです。
それが真ん中にあって「コンパクト農ライフ塾」をやっているんですけど、それは「ライフ」=「暮らしの方」が大切だよねっていうメッセージでもあって。自分の暮らしをミニマムにデザインすることが美しい・かっこいい・楽しいっていう風に、もっともっと社会が変わっていく。まさしく今その瞬間なんじゃないかと思うんですよね。
だからBUZZ MAFFが出すメッセージは、暮らしにもフィーチャーする部分もあって面白いなって思う。今まで国からはお固く政策を伝えてたのが、BUZZ MAFFでは「こんなの面白くね?」っていうスタンスの伝え方になっているのがすごいことですよね。
松本:国も「今までは、生産サイドだけに重点を置きすぎた」という反省点があって。BUZZ MAFFの視聴者の、農業に全く興味のない人に興味を持ってもらうためには、「口に入る」「食べる」動画のウケがいいんですね。「ゆるふわ」が検討会の議事録に出てくるほど、現場の職員が変わってきましたし、国としても転換期だと思っています。
あとは井本さんがされている「半農半X」の体制も加速化して増えています。市の受け入れで半農半Xの事業を取り入れる自治体がすごく増えてきているので、今後1~2年とかでガラッと変わっていくと思います。井本さんに追い付けって感じですよね(笑)井本さんは、コロナになる前からそういったお考えだったところがすごい。
井本:「農業を小規模にやろう、小さくていいんだよ」「だってポケマルがあるじゃない?」って思うわけです。ポケマルでモノを売っていけば、それで成り立つんだから。「農」は十分にコンパクトでやれるよねって話です。
博之:今までの日本に足りなかった議論だと思うんですが、「幸せとは何か?」と聞くと、すぐ「牧歌的」とか答えられるんですが、世界で見れば、ウェルビーイングの議論はしばらく前からあるし、ヨーロッパじゃ10年以上前から議会で超党派で幸福の議論をやってるんですよね。
僕らだって幸せになるために生きているわけじゃないですか。だけど先日講演で「幸せについて、友達や家族や会社の同僚と議論したことありますか?」って質問をしたら、ほとんどの方が手を挙げられませんでした。これから幸福追求の時代なんだから、幸福について考えることを御座成りにしてきたことは、日本が反省しなきゃいけない部分だと思うんです。幸せの形は十人十色だから。別に横と比べなくていいし、いろんな形があっていいんですよ。
井本:「農あるライフスタイル」の面白さは、真ん中に幸福があることですよね。
邦男:幸せな生活、幸せな人生って何かというと、いもっちゃんの言っていた「足るを知る」って言葉に帰結するような気がします。それを体現していらっしゃるのがまつじゅんさんじゃないかなと。「農」が近くにあって、自分自身に思い入れもあって幸せも感じていらっしゃる。
松本:私もこれまで、仕事とプライベートは切り分けて来たんですけど、最近は割と近しくなってきていると感じています。平日は政策の仕事をしてますが、休日は疲れて寝るよりも、私は畑に出向いた方がリフレッシュになるし、何よりおいしいものが食べられる(笑)
NINO FARMも5年間くらいやってますが、続けるコツは「自分のため」が大きいなと思っていて。今やっている週末農ライフは、埼玉県草加市の、駅から徒歩5分の畑を借りています。家を出て約40分で畑に着いて農ライフができるんですね。
松本:私の周りの人たちはたぶん、「できるけどやってない」人たちなんじゃないかな。それは畑までの物理的な距離のハードルというよりも、精神的なハードルの方が大きいのかなって思います。なので今まで知らなかった人たちも、「こんな近くでこんな素敵な生活が送れるんだ」って思ってもらえたらいいですよね。
少し恥ずかしいんですけど、私たち「フォトジェニックファーマー」と銘打って、「おしゃれな農ライフ」って感じでインスタとかブログから発信していますが、それは何故かというと農業のハードルを下げたいからなんです。「作業着いるんですか?」とか「鍬はいるんですか?」って訊かれたら「汚れてもいい恰好だったら何でもいいよ」って返信してるんですね。そういうところから「こんなに簡単に農に触れ合うことができるんだ」って思ってもらえて、精神的なハードルを下げることができればいいと思っています。
邦男:まつじゅんさんは「おいしい=幸せ」をライフスタイルとしていて、それが僕はいいなと思います。憧れます。その憧れをどれだけ作っていけるかがまさに「農あるライフスタイル」を世の中に広げていくポイントになる。
さらにコンパクトであれば、その選択肢も多様にできると思っていて。先程フォトジェニックって言葉を使っておられましたけど、「私はフォトジェニックファーマーです」「私は〇〇ファーマーです」っていう名乗り方は、コンパクトであれば無数に体現できるものがあると可能性を感じました。
井本:要はコンパクトって、いろんなライフスタイルと組み合わせていける訳ですよ。半農半Xって言ってますが、今はいろんな仕事を並行してできる時代ですよね。それを「新・兼業農家」って僕は呼んでいます。テクノロジーをうまく組み合わせて、自分がやりたいものを全部やっていけばいい。その際にコンパクトに農を真ん中に置いてみる。自然の中で作って食べて働いてっていうのが、1個の線で結び付けられるのが「農ライフ」だと思うんですよ。そこが最も面白いところ。
だけど農村でそれを始めようとするときに、みんなぶち当たる壁が、農村でのコミュニティです。自分がそういう暮らしを始めようとすると、その地域の色があるから結構壁にぶち当たったりする訳です。初めてどこかに移住して暮らしを始めたいと思っても壁が高くて、そこまでなかなか至らない。
だから「コンパクト」がとても重要で。例えばテレワークをしながら農村に通って、徐々にそのコミュニティの多様性や良いところをつまみ食いしながら「農を始めるのはこの場所だ、やってみよう!」って決めて、コンパクトに始めれば、ハードルが下がるでしょう?今は、頭で考えて行動しないよりも、「とにかく動いてやってみようよ」って、コンパクトにアクションする時代なんじゃないかなと。
邦男:「やってみよう」がなかったら、BUZZ MAFFも生まれてなかったですもんね。
松本:はい、よかったです。反対にあった時はどうしようかと思いましたけど。(笑)
邦男:博之さんから「人生の醍醐味」って言葉をいただいたとき、皆さんとお話しながら、手元で「醍醐味」の意味を調べて見たんですよ。醍醐って古代のチーズですね。それも最高級品のチーズだそうです。食べ物から来た言葉だから、「農業は人生の醍醐味」って今日のテーマにすごくしっくりくるなって思いました。
博之:いいこと言うでしょう僕!(笑)食って最高のコミュニケーションツールだと思っています。今は食べ物って世に溢れているでしょう?昨年だって630万トンも食料廃棄があったくらいだから。日本は飽食の世の中なんですよ。その中でも食の魅力の1つは、関係性を育めること。食事する時に会話するしね。友情愛情を育む重要な場だから。
コロナの前は「時短」に押されて奪われていたのが、僕らのコミュニケーションの時間なんですよ。これまでのような工業的食事、例えば車のガソリンとかスマホの充電のように、ただの栄養補給のみを目的とするような食事一色になっちゃったら、俺らロボットかよって話です。だから再び「人の間」を取り戻す上で食事が重要だと、コロナの後は見つめ直されているので、安心しています。
邦男:こちらのセッションの残り時間があと15分切ってますが、本質的な部分に問いが立てられて、全員がセッションのベクトルを持ち始めましたね。
博之:視聴者の方から質問で「生産者と消費者が繋がるには何が必要なのか?」って、ストレートな深い質問が来ていました。僕自身の考え方をお話しさせてもらうと、僕は農林水産省の「送料無料支援」が必要だと思っています。
昨年、ポケマルが実際に送料無料の支援をしていただいて市場を広げることができました。「送料無料なら」って生産者から直接購入することを消費者にまず体験してもらうことが大事なので、物流の問題が最大のカギだと思っています。
博之:ですが送料無料は、時限的な支援だとも思っていて。物流会社さんでモノを運んでいる人にも、生産者と一緒で家族がいます。日本の物流は世界一だから、みんな「安く快適に早く運んで」って言いますが、これ以上物流コストを下げるのは難しいと思うんですよ。そうなると消費者さんと生産者とのサプライチェーンしかないと思っていて。
例えば共同購入のような会社を作るとか、飲食店を物流の拠点にするとか。ピッキングポイントをあちこちに設けて、外出のついでに取って帰るとか、物流の流れを簡略化してコストダウンするためには、消費者も動く必要がある思います。僕自身、ここは挑戦していきたいところですね。
井本:「食」って、誰とどれだけ食事の回数を重ねていたかで、仲良くなるかの度合いがまるっきり変わるわけですよ。だから食をみんなで楽しむことがもっと生活者の中で巻き起こってくると、共同購入の形がどんどん作れるんじゃないかと思いますし、それはぜひポケマルで挑戦してほしいし、俺もなんか手伝えることがあったら手伝いたいな。
博之:いいですね。やりましょう!
井本:コロナのタイミングで東京に住んでいると、外食は20時までしか行けない。「だったら家で食べればいいじゃん!仲間を呼んでみんなで食べようよ」って流れが生まれます。家で食べる時にみんなで「こういう産地からこうやって送られてきたよ、おいしいんだよ」って話すだけで1時間2時間経つわけで。これってすごく豊かな時間でしょう?
「みんなもっと食のことを語ろう!」って言いたいし、俺なんかカミさんがいなくなってからは自分で食事を作るんだけど、食事を作ることはこんなに楽しかったんだって思うんですよね。そういうことをもっとみんなに伝えたい。食事を作ること、誰かと食事をすることで、食のことを語り合うことの豊かさを伝えていきたいんだよね。
邦男:それは、まつじゅんさんがやってらっしゃることのど真ん中ですよね。
松本:そうですね。「食事を作る」部分がどうしても疎かにされがちだと感じています。生産者さんだって、一番嬉しい言葉は「おいしい」と言われることだと思いますが、その「おいしいを作る過程」は調理ですよね。だからポケマルで美味しい食材を取り寄せて、自分ならではの調理をして「おいしい」という言葉を生産者さんに返す。そこにコミュニケーションが生まれて、喜びを感じるんじゃないかなと思いますね。
邦男:「おいしい」って言葉にいろんな思いが含まれていますね。その人とつながった喜びを表す言葉だし、自分自身の喜びの発露でもある言葉。
例えば日本の「いただきます」に相当する言葉は海外にはない。食文化、カルチャーがそれぞれ異なる中で、「おいしい」にあたる言葉はどこにでもある。人間の本質的な、幸せを感じた時に出る言葉って、もしかしたら「おいしい」になるんじゃないかな。まつじゅんさんが「普段からやってらっしゃる」からこそ、説得力が増してきています。自分自身が楽しくないとなかなか続けられないですよね?
松本:自分のためにやっていて、それで喜んでもらえたら本当に幸せなことです。だから続けられるんじゃないかなと思います。
邦男:いもっちゃんが、「人生に農を取り入れると価値が深まる、輝く」と本でも書いてらっしゃったと思いますが、これから農業をやっていこうという方たちにも、その考えを伝えていくことに力を入れていますか?
井本:もちろん!僕も月のうち10日間は広島県竹原市田万里町っていう限界集落に暮らしているわけですよ。これがさっき言ったみたいな「サウナと水風呂」みたいな感じで、自分の心を整える意味でも、この10日間がすごく大切で。農業でも、都市での暮らしにおいても、先人たちの知恵の素晴らしさがあるけど、それは都市の暮らしだけではわかりにくいと思うんですよね。何を食べるか、家族とどんな会話をするか、「農ライフ」を送るから気づける大切なことがあると思うんですよ。
あと、都市の暮らし、農村の暮らしを僕は両方していて、いい感じで気持ちが整っているから、その面白さは伝えていきたいなあ。僕は「農村に移住しましょう」ばかりは言わないようにしていて。移住したいならしてもいいけど、「移住すること」よりも、世界中の人たちとつながって、面白い価値観をごちゃまぜにしながら自分の暮らしをデザインする。自分の暮らしを沢山の人に伝えてフィードバックしてもらう。
誰かに「こんなの面白くない?」って伝えたら、それを受けた人が「面白いじゃん」って感想を自分に戻してくれて、さらにそのもらった感想を他の人にシェアする。みんなが自分らしい暮らしをデザインできるようになることが重要だと、もっと多くの人に伝わったらいいなと思いますね。
邦男:ありがとうございます。産業としての農業の課題は、さっき博之さんがおっしゃったように物流コストがかかることですね。それは僕も農業県である宮崎県に住んでいる中で、物流が最後の大きなハードルだと感じています。ここに関しては、個人ではクリアできない課題も大きくあると思うので、国としても改めて向き合ってほしいと思います。
今日は「農あるライフスタイル」、1人1人がどう生きるのか、どうありたいのかをテーマにしてセッションを進めてきました。残り時間がわずかになりましたので、みなさんに一言ずついただければと思います。
松本:今、若者の新規就農者数が増えていて、コロナ以前からライフスタイルの変化に興味を持っている人が多くなってきているように思います。私も農ライフを送っていて反響をいただいていますし。まず私たちにできるのは「農を知る」ことですけど、それを作ったり食べたりってことは、最も身近でわかりやすい方法なんじゃないかと思います。
農家の方が積み重ねてきた努力が日本の食糧を支えてきた、ということを念頭に置いて、それを再認識するためにも、自分たちができるところから農に出会う、触れ合う、ライフスタイルに取り込んでいく。ヒントは「知る」と「食べる」。その中でもまずは「知ること」が大事だと思いますね。
井本:「資本主義経済は限界にきている」って言われているような気がしていて、これからは循環主義経済に変わっていくべきだと思うんです。何を大切に生きていくのかは、自分たちの暮らしが基本で、いかに暮らしを循環させていくかが大事になってくるでしょう。
農村の暮らしでは、自分たちの身体から出たものを肥料にして作物を育てるのが当たり前。ミニマムに「自分の暮らしが循環することで、暮らしをデザインしていける」ことを、これからみんなが挑戦していって、それが嬉しいとか楽しいとか心地いいになっていけばいいと思っています。僕自身もこの循環を実践して心が豊かになっているので、是非それをみんなにシェアしたいですね。
そして、その上で商売も回していくというのが大切だと思う。今日このセッションを見た人は、それをいいバランスで是非挑戦していってもらいたいと思います。
博之:僕らの快適で豊かで便利でおいしい都会の生活は、誰かが掻いた汗と、誰かがかけた時間と、そして時に誰かの犠牲の上に成り立っていることを、僕らは知らないと、持続していけないと思います。
まつじゅんさんがおっしゃったようにまず「知る」ことは大きな力で、知らないから共感できない。人間って知れば共感できる生き物なので、知れば、自分たちは消費者として何ができるか、すぐにできることがあるんじゃないか?と心が動くはずなんです。だからこそ、まず「知る」ことが大事。
今回のコロナ禍で忘れてはいけないのは、「自然の側からの最後の警告」ということです。もう僕らは、これまでのような生き方をしていたのでは、先がないことをはっきり示されているわけだから、変わらなきゃいけない。身近な生産者から、旬の食材をいただいて余すところなく食べる。皆さんがそれを実行すれば環境の負荷も減っていくはずなので、ぜひポケマルという入口がありますからよろしくお願いします!
いもっちゃんの「コンパクト農ライフ塾」もありますし、まつじゅんさんのBUZZ MAFFもありますから、ぜひこれらの取り組みをシェアして、まだ知らない人に広げていただけると嬉しいなと思いました。
邦男:博之さん、見事な〆をありがとうございました。「農」というキーワードは、まだまだいろんな捉え方ができるんじゃないかなと思います。今日聞いていただいた方々も、1人1人是非いろんな角度から向き合って、まずは「知る」ところからスタートしていただければと思います。今日はお付き合いいただき、ありがとうございました。
草々
Editor's Note
「農」と「ライフスタイル」をかけ合わせたら、ここまでキーワードが多岐に渡るのか!その広がり具合に驚くとともに、問題解決の方法は、遠いようで、手を伸ばせばすぐ近くにもある。私たちにも、今すぐにできることはまだまだたくさんあるのではないか?それを実感します。
1人1人が意識して、「農」を知っていくこと。そのことがどれほどの豊かさをもたらしてくれるのか。まずは身近なところを見回して実践してみたい。行動に移してみたいと思わせる、皆さんの熱い想いをしっかりと受け止めることができるセッションでした。
KAYOKO KAWASE
河瀬 佳代子