SHIZUOKA
静岡県
「期待される」って嬉しい反面、意識すればするほど、プレッシャーを感じてベストを尽くせなくなってしまうことってありませんか?
特に、相手の信頼が大きくなればなるほど、期待値も上がり、プレッシャーを強く感じるようになりますよね。(プレッシャーに弱い私はすぐにお腹を崩します・・・)
一方、世の中にはプレッシャーを感じながらも、常に成果を残し続けている人たちが存在するのも事実。今回取材した住吉昂太氏も成果を残し続けているうちの一人。
学生時代から東京と地元である静岡を行き来しながら、様々なプロジェクトを立ち上げ、新卒からは二足のわらじを履いて、地域で活動しています。
今回はそんな住吉氏への取材を通じてみえてきた「地域からの期待との向き合い方」を3つにまとめました。
東京の大学に進学した住吉氏が、静岡県に関わるきっかけとなったのは静岡県静岡市清水区にある「三保松原」が世界遺に登録されたことだった。
「幼少期の頃から大好きだった “三保松原” が世界遺産に登録された時は、本当に嬉しかったです。ですが、それからすぐ “がっかりスポット”という声を聞くようにもなってしまったんです」(住吉氏)
「富士山・松・海」が一望できることで有名になった「三保松原」ですが、この絶景スポットに訪れるには、少し歩かなくてはならず、このスポットにたどり着かないまま帰ってしまわれる方が多かった。さらに、観光客がピークを迎える夏場には富士山の雪が溶けてしまっていることから、せっかくたどり着いても、想像していた絶景が見れず “がっかりスポット” という声も聞こえるようになってしまったのだ。
「自分の好きなものがガッカリされたら悲しいじゃないですか。僕の場合は、好きだと思うものが “地域” だったんです。だからこそ、地域の魅力がどうやったら伝わるのかを考え、初めて静岡県でイベントを企画したんです」(住吉氏)
住吉氏がはじめて行なったのは、『空から眺める世界遺産 三保松原」地元の魅力を伝えたい!』プロジェクト。大好きな「三保松原」を最も綺麗に楽しめる冬の時期に、気球に乗って空の上から富士山・松・海を一望しようという企画だった。
「資金は全くなかったので、 “クラウドファンディング” を使って、資金調達を試みました。驚いたのは、自分たちは “地元のために” と活動をしているつもりでしたが、一部の地域の人からはでは “学生が地元で詐欺か?” なんて囁かれていたことですね」(住吉氏)
今や当たり前になったクラウドファンディングも、当時の静岡県では、まだまだクラウドファンディングが認知されていなかったこともあり、「インターネットで学生が不特定多数の人からお金を集めている」ということから、怪しまれていたと言います。
「一方で、すごく応援してくださる方もたくさんいました。特に、当時は一度もお会いしたことのなかった地元のデザイナーさんが5万円も寄付してくださったのは、精神的にも支えられました。この経験があったからこそ、どんなことにも賛否があると僕は思っています。自分自身が絶対に良いことだと思ってやっていても、悪く言ってくる人はいるし、その一方で応援してくれる人もいる。だからこそ、自分がどうしたいのかが大切なんですよね」(住吉氏)
その後、気球プロジェクトは大成功を納め、当時の参加者には今でも静岡県に幾度となく足を運んでくれる人もいるという。
気球プロジェクトを皮切りに、地域活性化プランコンテストなど、数多くのイベントを行なっている住吉氏ですが、プロジェクトの発端は、いつだって住吉氏の「これあったら楽しそう!」という気持ち。
「常に “正しさよりも楽しさ” を大切にしています。ロジックなんて後からつけても良いんです。最初から難しく入ったら、面白くないじゃないですか。楽しくないことはやらないがモットーです」(住吉氏)
昔から自分の好きなものを周りに共有し、広めていくことが大好きだったという住吉氏。気づいたら、情報の発信源になっていることが多いんだそう。
「僕にとっての好きなものが “地域(三保松原)” だったというだけなんです。自分の好きなものを昔も今も変わらず、周りに共有していたら、今では静岡ツアーを個人的に開催してます。毎年、20人くらいは僕の実家に泊まっていますしね(笑)」(住吉氏)
さらに、自分の好きなものを共有するのと同じくらい住吉氏が好きなのが、「誰かと誰かをマッチングすること」だという。
「地域の最大の魅力は、大きいコミュニティだからこそ、性別、年齢、職業、、全て関係なく、みんなで地域を育んでいくことができることだと思っています。地域は誰も仲間はずれにしないコミュニティ。地域の中の人と外の人が、意外なきっかけから繋がっていく瞬間がすごく好きで、静岡県の中の人と外の人を繋げるのが僕の役割だとも思っています」(住吉氏)
住吉氏をきっかけに中と外の人が出会い、なんと「結婚」にまで至った人たちや、飲み仲間として繋がっている人たちの存在が本当に嬉しいと笑う住吉氏。
「静岡県にいる中の人と外の人を繋げることが、僕が1番価値発揮できることなんです。自分がどれだけ楽しくても、自分自身が価値発揮できていないと感じると辛くなってしまう。でも誰も仲間はずれにしない地域は、誰もが価値発揮できる場所でもあると思うんです」(住吉氏)
「僕のビジョンは、“3つのしみん” を増やすことです」(住吉氏)
住吉氏のいう “3つのしみん” とは、citizenの意味の市民ではなく、
① 挑戦やトライする人という意味の「試民」
② 挑戦やトライする人を支えたり応援する人という意味の「支民」
③ 地域と離れていても、地域を想い、地域に想われている人という意味の「思民」
「気球プロジェクトを行った時、自分自身は何者なんだろうかと考えたことがありました。大学進学とともに東京に出てしまっていたので、もう “市民” ではなかったんです。その時、僕はもう “市民” ではないけれど、静岡県で挑戦する “試民” で、クラウドファンディングで支援をしてくれた人は、そんな僕を応援してくれる “支民” 、そして気球プロジェクトに参加してくれた県外の人たちは “思民” だと思いました」(住吉氏)
この “3つのしみん” を増やしていくことが、人口減少時代のいま、地域にとって重要になってくると住吉氏は語ります。
「人口が減っている中で、移住施策を頑張っている地域が多いですよね。もちろん、それもいいとは思いますが、日本全体の人口が減っている中での地域間の人の奪い合いは、みんなが疲弊してしまうかもしれない。だからこそ、地域に関わっている人たち(“3つのしみん”)の力を高めていくことが、地域の力を維持する上で重要だと僕は思っています」(住吉氏)
どれもが欠けてはいけない重要な要素である “3つのしみん” が増えることで、人口が減っても地域の維持に寄与と考えている住吉氏は、ビジョン達成に向けて次なる挑戦を行うため、2019年4月から職場を「東京」に移した。
「今年から東京のまちづくり・鉄道会社へと出向をしています。中長期的な目線で、今後より静岡県に提供できる価値を高めるためには、一度静岡県を離れ、外から静岡を見たり、新しい環境で挑戦を行ったりする方がいいと思いました。今は、静岡と東京を行き来するからこそできる価値を発揮したいと思っています」(住吉氏)
平日は東京で働きながら、休日には静岡に戻って、地域活動や静岡で立ち上げた、観光地のドラマ型音声ガイドの制作や、静岡のクリエイターのプロダクト等を発信・販売するミュージアムショップ “みほしるべ ” を運営している「株式会社Otono」の取締役として活動をしている住吉氏。これからは2年前に立ち上げた、若者向けの県人会「シズオカなかまつり」により力をいれていきたいと話す。
「東京にいるからこそ今後は、東京で静岡の県人会ネットワークを広げていきたいと思っています。 “首都圏で静岡といえば住吉” というポジションを担っていきたい。これからより関係人口の流れが加速していくからこそ、地域の中と外を繋ぐコーディネーターとしてより価値発揮をし、 “3つのしみん” を増やしていきます」(住吉氏)
常に自分の「楽しそう」や「やりたい」というポジティブな感情を大切にしながら、主体的に行動を続けている住吉氏。
自分の「やりたい」を大事にし、時には “支民” に助けてもらいながらも、ビジョンを見失わずにまっしぐらに挑戦を続ける。そんな住吉氏の姿勢こそが、周りが住吉氏に「期待」する理由であり、期待を一心に受けながらもさらなる挑戦を続けられる秘訣なのかもしれません。
Editor's Note
取材時には、住吉さんの会社で運営しているミュージアムショップ「みほしるべ」で売られているという、三保松原をアイシングした「三保松原クッキー」をお土産にいただき、そのクオリティの高さにびっくり。クッキーの味はもちろん、その見た目や、クッキーが入っている包みにまでこだわって作られたのがわかります。
「このクッキー屋さんは、自宅にお店を構えられてて、地域にすごく愛されているお店なんです。他にも、松葉を使った飴があったり、、」と、とにかく楽しそうに静岡県のお話をしてくださった住吉さん。
まさに「好きだと思うものが “地域” だった」という住吉さんの言葉が、言葉以外の部分でもたくさん伝わってくる取材でした。
NANA TAKAYAMA
高山 奈々