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※本レポートはシェアリングエコノミー協会が主催するイベント、「SHARE WEEK 2023Sustainable Action」のディスカッションを記事にしています。
ソーシャルインパクトという言葉をご存知でしょうか。ソーシャルインパクトとは、企業や組織が本業を通じて社会的課題解決に取り組むことを意味しています。
環境問題や人権問題、社会問題などが複雑化していく現代において、企業の影響力はますます求められています。その際に、単に利益を追求するだけでなく、また社会的意義のみを追求するだけでもない、両方をバランスよく追求していく方法はあるのでしょうか。
本ディスカッションでは、「SOCIAL IMPACT~既成概念を覆す社会課題解決の新手法~」をテーマに、国内外で活躍されている登壇者たちが未来へのヒントを語ります。
前編記事では、登壇者の行っている取り組みとインパクトに関する考え方をお届けしました。
後編記事では、ソーシャルインパクトを追求する上での課題と可能性について、さらに掘り下げた話を語ります。
佐別当氏(以下敬称略):丸井さんがされたような定款に企業理念を入れることって、特に上場企業ではあまり聞いたことがないように思います。そこまで踏み切るのには株主や取締役会の理解が必要だと思うのですが、どういった反応だったんでしょうか。
青井氏(以下敬称略):株主はおおむね好意的でした。全く反対が出ず、議案の賛成率もほぼ100%に近かったです。
2007年頃にグラミン銀行を創設したムハマド・ユヌス氏とお会いしました。その時に聞いたお話では、グラミン銀行はヨーグルトのダノンと連携してグラミンダノンを作った際に、株主に迷惑かけないために別のところからお金を調達して事業を行ったそうなんですね。それに対してダノンの株主が、「何でそんないいことやるのに自分たち参加させてくれないんだ」と言って逆にクレームになったのだそうです。こういったエピソードからも分かるように、現在では株主の意識も大きく変わってきているのではないでしょうか。
佐別当:IMPACT BOOKなどで具体的な数字を上げていらっしゃいますが、それに対して「もっと売上を追うべきだ」というような意見も出てきそうですが。
青井:確かにそういうご意見もありますが、ご理解もいただいていると思っています。
私が社長になってすぐ、業績が厳しくなって経営危機になったことがあります。すごく苦労して、何とか立ち直って、今はおかげさまで業績好調なんですけれど。そのときに業績が厳しくなった理由を考えたところ、いつからか利益を生むことが自己目的化していたことに気づきました。それが行き過ぎてお客様から見放されてしまい、危機に繋がったというのが私たちの反省だったんです。
そこから立て直すには小手先の技ではなく本質的にお客様と社会のお役に立てるような価値が必要だと考えました。そうやってやってきたことの延長線上にインパクトやサステナビリティが繋がってきていると感じています。
佐別当:まさに丸井さんに僕らも出資していただいてるので、担当の方と話す機会が多くあります。その際、ファンドの投資方針を話し合っていたときに、青木さんが「売上利益のためにファンドを作った訳では無い」とおっしゃっていたという話を伺いしました。本来は順調に売上を出しているはずなのに、そこで立ち止まって考えられるのはすごいことだと感じました。
青井:スタートアップ40社近くに投資させていただいていますが、いわゆるベンチャーキャピタルと違って個人のお金はお預かりしてないんです。もちろん株主から間接的にはお預かりしてるんですが、自己資金を本体投資のような形で株主の承認を得てやっています。なのでお預かりした金額に対して、「期待利回り何%でお貸しします」というふうにしなくてもいいんです。
ファイナンスリターンを追求すると、本来の目的である協業から相乗効果を生むというところが損なわれてしまいがちです。そうなると何のためにやっているのか分からなくなってしまうので、時々見直しをしています。
佐別当:工藤さんは政府系の委員会にも入られて政策提言をされていらっしゃると思うんですが、どういう立ち位置で関わっているんでしょうか。
工藤氏(以下敬称略):先月、「J-Startup Impact」に携わりました。これは、経済産業省主催の「J-Startup」のインパクト版として今年から始まったものなんですが、その際にインパクトの選定基準をどう作るのかがすごく難しかったです。
工藤:その際に感じたのが、政府の役割の重要性です。インパクトやインパクトスタートアップが、日本全体にとっても大事だというメッセージを政府が発することは、とても影響力があることです。それによってロールモデルを可視化して、今後のスタートアップが真似できるようなムーブメントを作っていくことが必要だと感じています。
佐別当:本当にここ1年ぐらいで政府からのスタートアップ支援や、インパクトという単語をすごく聞くようになりました。例えば僕らもまさにスタートアップですが、今年から急にベンチャー向けの無担保無利子の融資がサポートされるようになりました。
工藤:この1年で急に変わったという感覚は私にもあります。まず、岸田さんが掲げている「新しい資本主義」というコンセプトが政府の政策の真ん中に置かれてることが大きいと思います。
あとは外部環境として、欧米にサステナビリティ系の大きな潮流がある中で、もう抗えなくなっているというのもあるのではないでしょうか。丸井さんは自主的にやられていますが、多分多くの上場企業もやらないと海外の株主から相手にされなくなる危機感を感じていると思います。
佐別当:次の話題ですが、インパクトという意味だともちろん企業や政府も大事だとは思いますが、一番大事なのはやはり「人」だと思っています。丸井さんの人材投資とインパクトに関する活動や考え方を教えていただけますか。
青井:人への投資とインパクトって本当に直結していると思っています。最近象徴的なキーワードとして「人的資本経営」が言われていて、有価証券報告書にも記載をするよう求められています。
こうした動きの背景にあるのは、有形資産から無形資産を中心にした価値を作り出していく社会に大きくシフトしてる中で、イノベーションの創出の担い手は人そのものにあるからなのだと私は考えています。
AIはイノベーションを作ってくれませんし、人が成長しないと企業がイノベーションを創出し続けることはできません。そして人が成長するためには、人に投資する必要がありますから、ここにすごく力を入れています。ただ、人への投資が給与やPLの費用項目に留まってしまって、投資として認識がしづらいという問題があります。会計の限界だとは思いますが、そこにチャレンジする必要も感じています。
私どもは、キャピタルアロケーションと呼ばれるところに対して別枠で明記しています。既存事業の投資額や株主還元額と並べて、人への投資額を明記して株主とコミュニケーションしています。
具体的な数字で言うと、大体人件費の25%超を社員の皆さんが成長するために投資しています。デジタル研修ですとか自己啓発の集いへの参加とか、そういった費用を投資として計上しているんです。これまで年間60億ぐらいを人への投資に費やしてきましたが、今後5年間は倍の120億円ぐらいを投資していきたいと思っています。
意外にも見積もってみると、内部収益率は13%弱ぐらいで回っていました。これまで主な対象だった店舗などに投資するのと同じくらい、あるいはそれを上回るぐらいの率で回るということが分かったので、自信を持ってどんどん人に、未来に向けて投資していきたいなと思ってます。
佐別当:SIIFさんは何か具体的に力入れていることはありますか。
工藤:スタートアップへの支援として我々の得意分野は、インパクトの測定や評価、戦略作りといったことをハンズオンでご一緒することです。
それでも一番大事なのは根幹にあるパーパスとか社会課題のリアルへの解像度だと思います。やっぱり現場に行って、最先端でやってる人たちの話を直接聞いたりすると、パワーとエネルギーが充満して帰ってくるわけですよね。いわゆる研修よりも、そういった体感やインスピレーションが得られるところに投資をしていきたいとは思っていますね。
佐別当:その点、僕たちは地方に面白い人が沢山いて、それをフューチャーして紹介したり繋げたりということを今やっているので、ぜひ何かコラボできると嬉しいなと思っています。丸井グループ、SIIF、シェアリングエコノミー協会、アドレスを含めて、この4社が集まるからこそできることがあると思いますがいかがでしょうか。
青井:できることは沢山ありますよね。例えば、オランダのトリオドス銀行は、サステナビリティやウェルビーイングのところだけにしか融資しないようにしています。そういったインパクト企業に預けたお金を使ってほしいという預金者を集めて、預金者と企業を繋ぐ中間の役割をしたんですね。
僕らはクレジットカードをやっていて700万人超の会員がいるんですけど、クレジットカードもある意味、消費者と使う先の企業を中間で結びつけているんです。ぜひ皆さんと連携して、そういうサステナブルやウェルビーイングの加盟店を集めて、そこでお使いになると特別なポイントが貯まって、更に加盟店に還元されるような仕組みをつくりたいです。
意識が高くなくても、使っているうちにだんだんと生活が大量消費からシェアリングやサステナブルに変わるような、みんなの幸せに繋がるような商品に関わることをやりたいと思っています。
佐別当:素晴らしいですよね。僕も『Just Money-未来から求められる金融』(金融財政事情研究会)という本を読んで感銘を受けて、僕たちのビジネスでやりたいなと思っていました。
工藤:その続きを、ぜひ別の機会でもお話したいです。
佐別当:金融や事業会社、業界団体や協会がスタートアップとコラボレーションしていかないと出来ないことって沢山あると思うんです。スタートアップだけでは全然足りない。
青井:お金の教育システム作りですよね。
佐別当:そうなんです。やっぱりアメリカはすごいスタートアップエコシステムができていると思うんですけど、日本は日本で、まさに青井さんがしているように、昔の商売のあり方にヒントがあると思っています。そこに共感している人たち、会社、団体同士で何か一つのプロジェクトを日本から世界に出せるといいなと思いました。
工藤さん、青井さん、本日はどうもありがとうございました。
Editor's Note
丸井グループの、倒産から立て直すために本質を見直していくエピソードは芯のあるエピソードだと感じました。表面的に掲げるのではなく、必要性を感じてソーシャルを追求していくからこそ、持続的な取り組みになるのだと思います。
Yusuke Kako
加古 雄介