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LOCAL LETTER

スタートダッシュより信頼貯金。「普通」の初動にみる、協力隊受け入れの本質

JUL. 09

ZENKOKU

拝啓、地域おこし協力隊との向き合い方に、迷いがある自治体職員のアナタへ

地域おこし協力隊を受け入れる際、業務をどう設計し、どう伴走したらいいのか。
他の自治体の事例もなかなかわからない。

受け入れを検討している段階でも、すでに受け入れている段階でも、そんな手がかりのなさを感じている担当者も少なくないはずです。

「スタートダッシュは要りません」
「『普通』こそ初動の成功につながります」

そう語るのは、全国の自治体で地域おこし協力隊(以下、協力隊)の募集・受け入れを支援する、合作株式会社の西塔大海さん。数多くの事例を見てきた西塔さんに、着任初期のミスマッチを防ぐための、伴走プロセスや業務設計についてお話を伺いました。

西塔 大海(さいとうもとみ)氏 合作株式会社 取締役副社長 / 地域おこし協力隊アドバイザー(総務省委嘱)、地域おこし協力隊制度・地域プロマネ制度設計の専門家。東日本大震災後に気仙沼で復興事業に携わり、自身も地域おこし協力隊として福岡県上毛町に着任した経験を持つ。現在は全国50以上の自治体で、協力隊の制度設計・募集支援・中間支援組織サポートに携わっている。

着任初期に築くべきは、成果より信頼関係

「協力隊の任用形態には、自治体が直接雇用する『雇用型』と、隊員が個人事業主として活動する『委託型』の2種類があります。

特に雇用型の場合、隊員の活動1ヶ月目でやるべきことは、じつはそんなに多くないんですよ。自治体の担当者の方に必ずお願いしていることは、2つだけです。

ひとつは、役所の中に隊員の方のデスクを置いて、担当職員と一緒に働くこと。もうひとつは、地域に出ていってさまざまな方と会うことです」

自分たちがどんなペースで、どんな仕事をしているかを隣で見てもらう。地域に一緒に出ていって、地域の人を紹介して、どのように役場の職員としてコミュニケーションを取っているかを隣で見てもらう。
それが最初の受け入れの土台づくりとして、担当者に進めてもらいたいことだといいます。

この2つを大切にする理由を、こう続けます。

「そもそも、スタートダッシュはしないでください』と伝えることが多いです。スタートダッシュは大抵、スピード違反で転んでしまうからです。

隊員の任期は原則3年間。着任当初の隊員の方は、早く成果を残さなければと焦りがちです。そんな気持ちから、ひとりでどんどん前へ進もうとすると、周りを置いてきぼりにしてしまう。

周囲の人からすれば、『あの人だれなんだろう?』とわからないままに動き出してしまうので、誰も協力できない状態になってしまいます」

まずは、担当者や受け入れ団体と、隊員の間で信頼関係を積み上げていくことが、この先の活動の根となるのです。

しかしこれは、隊員だけの問題ではありません。担当者側が隊員の動き方に裁量をもって送り出すことで、行き過ぎたスタートダッシュを後押ししてしまうケースもあります。

そうした状況を防ぐために何が必要なのか。「隊員に任せ過ぎず、一緒に信頼貯金を貯めること」と西塔さんはいいます。

「ちゃんと挨拶をすること、地域の人の話を聞くこと、周りが何をしているかをしっかり把握すること。信頼貯金は、当たり前のことを当たり前にやることで、少しずつ積み上がっていくものです。

まずは担当者が隊員と向き合い、信頼関係を築く。そして、隊員が地域の方と信頼関係を築いていく場面では、担当者が隣にいることが不可欠です。

民間企業から来た隊員も含めて、移住したての頃は行政や地域の常識に慣れないことも多い。その状態で孤独に走り出してしまうと、地域や担当者との間に小さなすれ違いが生まれ、やがて不信感につながる。すると、お互いが頼れる存在ではなくなってしまうんです。

そうならないためにも、一年目の職員さんに関わるのと同じように『どこに行くにもついていく』くらいの気持ちでいてほしいですね」

隊員を地域に紹介する際、最初に会うべきキーパーソンについてもこう語ります。

「協力隊の受け入れが多い、中山間地域や離島などのいわゆる過疎地域では、3人の方と会うように調整してもらっています」

1人目は自治会長など“長”をされている方。顔と名前を認知してもらうだけでも、地域での動きやすさが大きく変わります。

2人目は大家さん。隊員が空き家などに住まわせてもらうなかで、相談相手のような存在になってくれるケースが多いため。

3人目は先輩移住者。地域にうまく溶け込んでいる存在として、隊員の大きな支えになります。

「都市部やベッドタウンのような比較的大きな自治体では、キーパーソンに会うことが難しいことも。そのため、役所のなかで関係性をつくることが重要です。

業務内容が仕事の分野で区切られていることも多いため、その分野で専門的に活動されている方に会いに行くのもひとつだと思います」

担当者が隣にいて、一緒に地域や庁内を回り、信頼を少しずつ重ねていく。その時間こそが、着任初期にもっとも大切なプロセスだといえます。

業務設計は、ビジョンではなく目の前の仕事を積み上げることから

「よく自治体の方にお伝えしていることがあります。それは大きいビジョンを設計して、そこに向かって隊員と一緒に頑張ろうとは考えない方がいい』ということです

「地域で統一のビジョンを見える化することは難しい。合意を取ることも困難です」と西塔さんは続けます。

その状況で、隊員が一人ひとりにビジョンを聞いて歩くと「言っていることが違う」と混乱してしまうのです。

では、どこから始めればいいのか。設計の起点とするのは、担当職員自身の目の前の仕事といいます。

「担当職員の方が一生懸命に進めている業務は、裏を返せば地域の課題を解決するためにやっていること。そういった目の前にある小さな課題を洗い出していくと、タスクが自然と積み上がっていきます。

たとえば移住相談窓口の担当であれば、『ずっと住んでいるからこそ、まちの魅力がうまく伝えられない』といった困りごとが出てくる。それが外から来た人にお願いできる仕事になるんです。

ビジョンから逆算してタスクが生まれるのではなく、目の前の小さな仕事の積み上げの先に、進む方向がおぼろげに見えてくるイメージです」

このやり方には、メリットもあります。担当課内での合意形成がしやすくなることです。

「大きい目標を共通認識として置くと、人によって捉え方が違うので反対意見も出やすい。でも、担当者が今進めていることを軸にするなら、反対意見も出づらいですよね」

そして、そのタスクをしっかり募集要項に載せることが、次のステップとして重要だと西塔さんは話します。

「募集要項を簡略化してしまうことは、ルールを教えずに野球に誘うようなもの。隊員の方が着任してから言葉を尽くして説明するのでは、後出しになってしまう。

困っていることや任せたい業務など、最初から募集要項に書いて伝える。そのうえで、協力隊になりたい方々が選べる状態にするべきだと思うんです」

募集要項にしっかり書くということは、もっともシンプルなミスマッチ防止策なのです。

面接の場でも、募集要項の内容が土台になります。

「口頭で補足した情報は、記憶に残らないことも多い。だからこそ、募集要項に全て書いておくことが重要なんです。

また、自分が一緒に働く仲間を選ぶという気持ちで、面接に臨んでほしいですね。できるだけ現地に来てもらい、対面で会った印象や話し方、温度感などから相手を知る。どんな想いで募集しているのかも、直接伝えてほしいと思っています」

日々の仕事やタスクから業務設計を行い、着任前から隊員の方と共有しておく。こうした積み重ねも、着任後の動き出しをスムーズにするポイントのひとつです。

初動成功のサインは、大きな変化ではなく“何も起きていない”こと

初動が『スムーズに進む』とは、どういうことなのでしょうか。

「隊員の方が着任されて数ヶ月経った頃、現地に足を運んでいます。そこで最近どうですかと聞いて、『普通です』とか『何もないです』という返答があれば、順調に進んでいるなと感じます

「普通」「何もない」—— 

一見すると不安にもなる言葉ですが、これこそが成功のサインだと語ります。

着任前にイメージしていたことが、担当者も隊員もストレスがない状態で予定通りに進んでいる。それが、この言葉に表れているのです。

「逆に、『何か企画を立てて動いています』というような答えが返ってくると、気になりますね」

隊員自身は前向きな成果と感じていても、担当者や地域の方との間にズレが生じていることも。着任初期の時点では、足並みを揃えて計画通りに進んでいるかが大切だと西塔さんは話します。

「世の中に成功例として出てくる地域おこし協力隊の事例には、いわゆる『すごい』方たちが登場することが多いです。でも、そのすごい方は一握り。

通常業務で忙しい職員の方と、知見がない状態で来た『普通の』若者が、無理なく普通にやっていける状態をつくることが、準備段階で大切なことだと考えています。

大きな変化を目指すのではなく、計画通りに進んでいる状態をつくること。そして、担当者・地域おこし協力隊・地域の三者が『心地いい』状態でいられること。これが初動の理想の姿です」

特別な予算も経験も要らない。受け入れを仕組み化する3つのステップ

この理想の状態を再現するための手がかりとして、西塔さんは3つの受け入れステップを挙げます。

「1つ目が、制度を正しく理解するということです。地域おこし協力隊という制度は、知っているようで知らないことが結構あるんです。制度を正しく理解するために、都道府県庁が開催している研修には必ず参加してくださいね、と職員の方にご提案しています」

2つ目は業務設計のためのタスクの棚卸し。職員が今取り組んでいることや、過去の隊員が取り組んできたこと、新たな隊員を迎えたときに任せたいことなどを書き出しておくことが大切だといいます。

「3つ目は、伴走の要となる募集要項の作成です。書き出した業務のなかから、隊員と一緒に取り組む内容を絞り込む。『書き出しと絞り込み』と言ったりしますが、費用をかけずにできることです」

西塔さんが支援する自治体の多くは、一度この3つを実践すると、翌年以降は職員自身の力で募集ができるようになるそうです。

ただ、忙しい業務の合間に「作業時間を取るのが難しい」という声もあるといいます。

「業務の棚卸や募集要項は、書き出そうと思ったらペンが止まってしまうこともあると思います。そういった場合は、募集要項を作る支援を受けるのも選択肢のひとつです。総務省の国費による地域おこし協力隊アドバイザー派遣事業などもあるので、手を挙げてみるのもよいでしょう」

「たとえば、すごく素敵な文章やかっこいいバナーをプロの方に作っていただくと、費用がかかる分、再現性が保ちにくくなります。 

そうではなく、職員の方が無理なくできる業務に落とし込むことが大切だと思います」

最後に、西塔さんはこんな話をしてくれました。

「協力隊を受け入れるのは大変だな、とか、価値観の違いに戸惑っている方は、制度を誤解して活用している可能性が高いかもしれません。

自律的に動く隊員の方もごく一部いらっしゃいます。でも、ほとんどの方は職員の皆さんと同じ視点で、同じように仕事をすることを望んでいます

募集の仕方によって、応募者の志向も変わってくると西塔さんは続けます。

「業務や価値観に合う人に来てほしいと思ったら、その方々に向けた募集を作る必要があります。作り方のノウハウは国や都道府県にあるので、研修なども活用していただければと思います」

自治体が求める人材を明確にし、その方々に届く募集を作ること。それがミスマッチを防ぐために大切なことです。

目の前の仕事から業務を設計し、一緒に働く人に募集の意図を丁寧に伝え、信頼を積み重ねる。西塔さんが語ってくれたプロセスは、設計や伴走の仕方に迷うアナタの道標となるのではないでしょうか。

本記事は、前後編でお届け予定です。後編では、実際に協力隊を受け入れた自治体に、現場のリアルを伺います。前編で語られた視点が、受け入れにどう結びついているのか。ぜひ合わせてお読みください。

Editor's Note

編集後記

西塔さんのお話のなかで印象に残ったのは「スタートダッシュは要らない」ということ。新しいことを始めるとき、どうしても早く成果を出すこと、うまくスタートを切ることに意識が向いてしまいます。でもまずはじめに大切なのは、その手前にある信頼の積み重ねなのだと、気づかせていただきました。

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