Uozu, TOYAMA
富山県魚津市
前略
地域に何か貢献したいと思っているあなたへ
今の時代は関係性を多く持つよりも、“関係値の深さ” が重要になってくると思うんです。ご自身の友人とどれだけ深く関わっているか、これは決して一緒に過ごしている「時間」ではありません。自分の地域のイベントに「ボランティアでもいいから手伝いたい」と参加してくれる人がどれだけいるかが重要です。
僕たち株式会社WHEREは、地域と人の関係値を深めるプロデュースチームです。
そう切り出したのは株式会社WHEREの代表を務める平林和樹。平林は、完全オーダーメイドウェディングで業界に変革をもたらした株式会社CRAZYのグループ会社、株式会社WHEREの代表取締役を務めている。
創業前から「誰もが心に豊かさを持てる世界を実現したい」と語っていた平林は、創業から約1年半で20以上の自治体と取引を行い、3,000人規模のイベントを成功に収めたほか、総務省が行う地域未来牽引企業のアワードも獲得。
実績0からスタートし1年半でこれだけの成長を遂げている株式会社WHEREとは、一体どんな会社なのか、富山県魚津市の講演会で平林自身が語った「今、地方創生に挑む情熱と背景」をお届けする。(後編はこちら)
プロフィール
平林 和樹(Kazuki Hirabayashi)
株式会社WHERE代表取締役
1988年生まれ。新卒で大手IT企業に入社後、フルスタックエンジニアとして全社MVPを受賞。特許も取得。その後単身カナダへ1年間渡航したのち、50社以上の中小企業のITコンサルティングを経て株式会社CRAZYにジョイン。現在は株式会社CRAZYのグループ会社である株式会社WHEREの代表取締役社長をしている。
全国で様々なサービスを展開している株式会社WHEREはよく「地方創生を目指している会社」と説明されることが多いが、一般的に言われる地方創生とは少し違うという平林。WHEREにとっての地方創生とは「誰もが心に豊かさを持てる世界」だと言います。
どれだけ地域の人たちが笑顔なのか、どれだけ仕事にやりがいを持っているのか、どれだけ家族との時間を大切にしているのか。地方とか東京とか関係なく、自分の大切にしたいものを大切にすることができて、誰もが心に豊かさを持てる世界を実現することが僕たちの目指している世界です。
続けて、誰もが心に豊かさを持てる世界を実現するために今地域に最も必要なことは「地域と人の繋がり」であると語ります。
僕は長野県安曇野市出身で、実際に自分の肌で地域の繋がりが希薄になってきていると感じています。例えば、都内でも地域でも当たり前のように使われているネットショッピングサイト。なんでもボタンひとつで購入できる便利なITサービスですが、このITサービスが普及するほど、わざわざ地域のスーパーや量販店に行く人は減っていきますよね。
地域のお店に足を運ばなくなれば、地域との繋がりが薄くなり、消防団やお祭りに参加する人も減っていきます。地域という一つの集合体の繋がりが弱まり、地域を自治する人が減っていけば、地域を育むことができなくなっていき消滅の一途を辿らざる終えません。
だからといって、ITサービスを使わなくなる必要はないと思っているんです。重要なのは、便利なITサービスを使うことで僕たちが「個人の自由」や「便利さ」を手に入れつつ、どうしたら集合体としても地域を育んでいけるのかを考えることです。個人と集合体が両立する方法を考えるのが僕の役割だと思っています。
創業前から「誰もが心に豊かさを持てる世界を実現したい」と掲げているのには、平林自身の原体験が大きく関係していました。
僕は新卒で大手IT企業に入社し、当時は「お金・ステータス・権力が全てだ」と豪語するような人でした。負けず嫌いな性格もあってか、いろんなプロジェクトに片っ端から手を挙げ、その中でMVPや特許を取得しました。
仕事にやりがいもありましたし、年収もどんどん上がっていきましたが、次第に自分がどこか乾いているような、心が満たされていない感覚を持っていることに気がつきました。
入社して4年が経った時「これ以上やっても次が見えない」と思った平林は、思い切って会社に辞表を提出し、カナダにワーキングホリデーへ。当時全く英語が話せなかったという平林は、異国の地カナダで忘れられない経験をすることになります。
英語も文化もわからない中での生活はとても大変でした。そんな僕にとって忘れられないのが、当時隣に住んでいたご夫婦との食事の時間です。
毎日のように食事に誘ってくれ、僕の話を笑顔で聞いてくれましたし、英語も丁寧に教えてくれました。あたたかいご飯も、誰かと食卓を囲む時間も何気ない日常ですが、僕には本当に久しぶりの体験で、思わず涙を流しながらご飯を食べる時もありました。
自身の経験を通じて平林は、現代に足りないのはこういう人と人との繋がりを感じる瞬間なのではないかと感じるようになります。
当時僕はずっと一人で生きているような感覚を持っていました。でもご夫婦と出会って、「人は誰かに生かされている」ことを感じたんです。
IT業界にいたからこそ、今テクノロジーが発達してきている中で、これからはよりこういった人との繋がりが大切なのかもしれないと思いました。テクノロジーが発達すればするほど、人間性は下がっているのではないかというのが僕の仮説です。
今、魚のさばき方や林檎のでき方を知らない子どもが増えている状況は人間性の低下を意味していると平林は言います。
林檎のでき方なんて、知らなくても生きていけるかもしれません。ですが、知っていたら世界は広がると思いませんか? 普段スーパーで目にしている林檎がなぜ100円ではなく、300円なのか、作り手のことまでイメージを膨らませることが大切なのではないかと思っています。
僕は「その人の世界観を広げること」が心の豊かさを育むことに繋がると思って、この会社を創業しています。東京にいて、一つのコミュニティに留まっていて、一つの社会に属していて、一つの会社にいて、もしそこで自分の能力を発揮できなかった時、その人はどうなってしまうのでしょうか?
もしもいろんな地域に足を運ぶことや、漁業や農業という世界を知っていたら、その人は自分の能力を発揮できる舞台を見つけることができるかもしれない。いろんな世界を知った上で、自分の最善の人生を生きられる社会を創りたいと会社を創業しました。
ここからは「誰もが心に豊かさを持てる世界」を実際にどんな形でサービスに落とし込んでいるのかについて、講演会で平林が語った内容を簡単にご紹介します。
広島県の6地域が合同で行う、都内の地域に関心のある若者と地域の課題を一緒に解決していくプログラム「ひろしま里山ウェーブ」を各地域と共に実施。今年で3年目となる本プログラムの運営の一部を2年目から担っている。さらに今年からは、広島県江田島市で平林がプログラムのメンターを務める。
昨年のひろしま里山ウェーブの様子
僕たちが一番得意なデジタルマーケティングを活かしたHP作成と、僕たちの持っているコミュニティを活用したイベントの集客を行いました。僕たちの持っているコミュニティには、積極的に地域のまちづくりをやりたい人たちをが多くいるので、ひろしま里山ウェーブとの相性がとてもよかったんです。
当時富士吉田市が探していた地域おこし協力隊をWHEREが紹介。半年間の準備期間を経て、一人でお店を独立させ、集客に困っていたお店を繁盛店へと生まれ変わらせている。
今普通に地域おこし協力隊の募集をしても、どこもなかなか集客が難しい状況ですよね。だからこそ僕たちは「地域で活動したい」と思っている人たちが、富士吉田市のどこに興味があるのかを徹底的に深ぼり、都内でのイベントや現地でのツアーの実施を設計していきました。
他にも昨年(2017年)12月には、来場者3,000人規模のイベントを開催。富士吉田市は、「ハタオリ」の文化が1,000年以上も前から栄えていることから、ハタオリとランタンを掛け合わせた「ランタン祭」を実施した。
ランタン祭は僕たちの持ち出しで行いました。絶対に成功させる自信はあったので、各所に交渉を重ね、各所からの協賛や会場になった道の駅の無償提供をしていただきました。他にも、クラウドファンディングのリターン品の無償提供のほか、約300人のサポーター、約140万円のご支援をしていただきました。
当日は、地域の方にお店を出してもらい、地元にもちゃんとお金が落ちる仕組みを作ったり、自治体の方や地域の方にも積極的にランタン祭やスタッフに参加していただいたりすることで、地域と人の繋がりを生み出しました。
自治体のHPリニューアル、ECサイトの作成、都内でのイベントを実施。村の92%を森林が占めており、林業やまちづくりに関して最先端の取り組みを数多く行っているが、地域内外にそれを発信できていないことに課題があるとして、地域の情報を外に発信できる仕組みづくりを行った。
日本は林業が衰退してきていると言われている中で、根羽村はいち早く六次産業化に取り組み、森林組合を創立した1952年以降はずっと黒字経営の地域です。林業の他にもドイツのレッテンバッハという世界一豊かな村と言われている村の村長さんをお呼びして、まちづくり構想を立てています。
そういった情報を地域外にも発信できるように、僕たちは根羽村がやりたいと思っている「繋ぐ、守る、使う」という循環をコンセプトにしたHPを作らせていただきました。
さらに都内に根羽村の村長さんをお呼びして、イベントも開催させていただきました。これは僕たちのイベントならではだと思っているんですが、この日も自発的に参加者同士で、すぐLINEグループが立ち上がり、根羽ツアーへ行くというプランが出来上がりました。
その場で次の内容までが決まってしまうことが珍しくないんです。これは実際に村長さんがお話しをしてくださり、直接村長さんや、地域の方と繋がれるからこそできることだと思っています。
2017年9月にリリースした自社メディア「LOCAL LETTER」。メルマガ会員数が10,000人、SNSフォロワー数は8,000人を突破し、ユーザーの多くが20 ~ 30代のこれからの地域を担っていく人材で形成されるコミュニティの役割を担っている。メディアのキャッチコピーは「前略、ふるさとがもっと好きになるメディアです」。
僕たちが一番伝えたいことは「ふるさとは自分で作る時代になりました」ということです。「ふるさと」と聞くと、自分の地元やおばあちゃんの家を想像する方が多いかと思うんですが、これからの時代はそうではなく「ふるさと=愛着」と僕たちは定義しています。
愛着のある地域はいつでも作ることができる、みなさんにも多くのふるさとをつくってもらいたい、という想いでメディアをスタートさせました。
今まで、数々のサービスを実施することで「誰もが心に豊かさを持てる世界」を実現することを目指してきた株式会社WHERE。ではなぜたった1年半で20以上の自治体と取引実績を積み、総務省が行う地域未来牽引企業を受賞したり、代表の平林は山梨県富士吉田市の理事を務めるまでに飛躍しているのだろうか。
後編では、1年半でここまでの飛躍をした株式会社WHEREのコアになっている「非常識」と今後の大胆な「構想」についてお届けします。(後編はこちら)
草々