KITAMOTO, SAITAMA
埼玉県北本市
今、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、生活や働き方を考え直す人が増えているといわれています。内閣府の調査では、20歳代・30歳代の移住関心度が高まっているという結果も。
外出自粛やテレワークなど、生活に対する価値観の変化で家族とのコミュニケーションや趣味・関心事に時間が充てられるようになったり、住んでいる地域の活動に目を向けるようになったりと、一人ひとりが暮らしのあり方を考え直すきっかけが生まれているのです。
そんな中、地域の中でより豊かに暮らす人を増やすことを目指し、「暮らしの中で楽しみをつくる」をキーワードに、埼玉県北本市で『マーケット』をテーマとした実践的な講義を開講することになりました。
毎日買い物に行くスーパーや商店街など日常的なマーケット、縁日・お祭りなどのイベント的なマーケット、野菜の無人直売所のような場所も一つの小さなマーケットの形と言えるかもしれません。私たちが暮らす上で関わってゆくマーケットという場について改めて考えつつ、コロナ禍以降の新しい日常の中で、楽しみながら暮らしていくためのマーケットを研究していきましょう。
「マーケットの学校」は、単なる座学ではなく、実際に北本市のまちの雰囲気を味わい、人々との交流を通して、「どんなことを実現したら、自分の豊かな暮らしにつながるのだろうか?」ということを見つけられる講義です。
楽しいと思うこと、やりたいことを実現させたい!そんな方であれば、北本市在住かどうかは問いません。何かを実践してみたい方は、自由度が高い北本市を舞台にいろいろなことを試すことができます。
今回は「マーケットの学校」の主催者である、北本市観光協会の江澤 勇介さん、北本市役所の荒井 菜彩季さんに講義を企画したいきさつや想いをお聞きしました。
ー江澤さん、荒井さんのご経歴を教えてください。
(江澤)以前はフリーカメラマンとして活動をしていました。2020年4月から観光協会に勤めて、市のプロモーション企画運営などを行っています。北本市は私の地元でもあり、現在は観光協会の仕事をしながら、市内でシェアキッチン「ケルン」の運営も行っています。
(荒井)2012年に本庄市役所に入庁して、区画整理事業や産業振興を担当してきました。2019年に現在の北本市役所に入庁し、シティプロモーションやふるさと納税に関する業務を担当しています。
ー「マーケットの学校」を企画した理由をお聞かせください。
(江澤)私がマーケットに関わるようになったのは、友人の手伝いで東京のイベントに参加したことがきっかけです。当時はフリーカメラマンとして活動をしながら、自分の遊びの時間としてマーケット企画や運営に関わっている状態でした。
楽しかったのもあり、自分でも企画をしてみようと、友人のクッキー屋さんやカフェの方と一緒に2014年から久喜市で「縁側日和」というマーケットイベントをスタートさせ、5年ほど開催していました。
(江澤)最初は30店舗ほどの出店者が集まって実施しましたが、5年後には110店舗が出店するまでに成長したんです。もう大変でした(笑)。ただ当時は、ローカルでマーケットを開催しているところも少なく、地域の需要を感じていました。
北本市に戻ってきて、改めてまちの魅力や可能性を感じ、「縁側日和」のようなマーケットの空間をつくることができたら、よりこのまちの楽しみ方が見つかっていくのではないかと思い、企画しました。
(荒井)北本市では昨年からシティプロモーションの取り組みを本格的にスタートしました。
シティプロモーションと聞くと、外から人が集まってくる仕掛けをするという印象を持つ方が多いかもしれません。しかし北本市では、暮らす人や関わる人が、まちに興味を持って好きになる仕掛けをつくったり、北本市で何か楽しいことをしたい!と思っている方同士が繋がったり、活躍できる場をつくることを大切にしています。
今回は、「マーケット」という切り口から、北本に関わりたい人たちと出会い、思いを共有することができる機会になると思っています。
ー江澤さんにとって、北本市はどのようなまちですか。
(江澤)北本市は典型的な郊外型のまち。大規模な開発も行われていないので、平地林など自然環境も残っています。ずっと住み続けている方たちにとっては、当たり前の光景で面白味がないと感じる方もいるかもしれません。
ですが、私にとっては空き家も空き地も楽しい場所。余白があるまちだと思っています。余白を使っていろいろと好きなこと、やりたいことをやってみることが可能なまちです。マーケットの企画も私にとっては楽しい遊びをしているという感覚が大きくて。そういった意味では、北本市は贅沢な遊び場と思っています(笑)。
ーこれまでの経験を含めて思う、マーケットの魅力とはなんでしょうか。
(江澤)好きなこと、ものが集まってそれぞれがバラバラのまま一緒にいられる場であることが魅力だと思っています。マーケットといっても、大小規模はさまざまです。何十店舗も出店する大規模なものもありますし、私の運営するシェアキッチンの出店者と目の前にあるベーグル屋さんが仲良くなって、コラボレーションした小さなイベントを行いました。そういうのも、マーケットの一つといえる気がします。ものの売り買いだけでなく、習い事の発表や教育の場になることもありますよね。
好きなものを持ち寄り、やりたいことをやって楽しむ。そこで新たな交流が生まれたり、新しい面白いことにつながっていくという、単なる売り買いを越えたいろいろな可能性がある場だと思っています。
応援したい人やお店があるからマーケットに来てくれるお客さんたちの買い支えの気持ちも醸成されたらいいなとも思っています。買い物って投票みたいなもので、自分の好きなものを買うことが、そのお店なり作家さんが活動を続けることに直結する部分があります。マーケットという空間は、小さなまちの日常のようでもあって、人々が「なんかいいよね」と愛着を持てたり、つながりを感じられる場だと思います。
ー「マーケットの学校」でゲスト講師に鈴木美央さんをお迎えしますが、どのようなお話をお聴きすることができるのでしょうか。
(江澤)鈴木美央さんは建築家の方なんですが、これまでヨーロッパなどで100以上のマーケットをリサーチし、「マーケットでまちを変える」という本も出版されている方です。
ご自身でも埼玉県志木市で「Yanasegawa Market (柳瀬川マーケット)」というマーケットを運営しているので、マーケットに関する知見を持っている方なんです。
ヨーロッパをはじめ世界中のマーケット文化や、日本でのマーケット文化の在り方、どのように運営されているのかなど、マーケットに関わるさまざまなお話が聞けるはずです。
ゲスト講師と交流の機会もありますので、話をお聴きして自分がマーケットづくりをする際のヒントとなる情報を得られる内容の濃い時間になったらいいなと思っています。
ーコロナ禍で私たちの生活様式も変化が起こっていますが、マーケットから見えてくるこれからの地域のあり方や可能性はどこにあると思いますか。
(江澤)これからは今まで以上に「日常的な営み」が、そのまちの価値に直結していくだろうと思っています。
マーケットは日常と非日常の間にある中間の場で、言い換えればきっかけになり得る場だと思っています。そこで出店者さんやお客さんが楽しい空間を肌で感じてくれたら「自分にもできそう」「やってみたい」と、地域に対する関心が高まったり、意欲を持ってくれる人が増えていく流れが生まれるのではと期待しています。楽しいと思えたら、きっと伝えたいことが伝わっているということだと思うので、そういう場を増やしたいですね。
「自分たちで楽しい時間を作り出す日常」が北本で営まれることに価値があって、その積み重ねがこれからの地域のあり方をつくっていくんだろうと思います。とにかく、楽しいこと、やりたいことをやってみるといろいろ見えてくると思うので、今回の企画も気軽に参加してほしいですね。
ー最後に「マーケットの学校」を実施するにあたってメッセージがありましたらお願いします。
(荒井)当初、今年度の計画では、市内での大規模マルシェの開催を予定していましたが、コロナの影響で開催することが困難になってしまいました。しかし、この状況だからこそ、多くの人たちが自分たちの生活の仕方、そして改めて住んでいる地域のことを見直す機会になっていると思います。
今回、「マーケット」を切り口に講座を行い、北本市のまちに関わりたい人を増やし、そうした意欲ある方たちがやりたいことができる環境の整備や行政としてのサポートの形を探っていきたいと思っています。一緒に北本を楽しみましょう!
(江澤)これまでも北本市では、市役所前でマルシェ「みどりといち」の開催や、市内の雑木林や自然環境を会場に、それぞれのマーケットをバスで巡り休日を楽しむ「きたもと緑の森めぐり」、農業体験とマーケットを融合させた「秋の収穫祭」といったイベントを開催してきました。
どれも元を辿ると、自分も住んでいる北本というまちの「雑木林が減ったらいやだな」とか「子どもたちがのびのびと過ごせる環境を守りたい」といった個人的な動機からスタートしています。もう公私混同です(笑)
だけど、それで良い、そうじゃなきゃ続かないとも思っているんです。まちの暮らしの中に、楽しいと思うことをシェアしたり、新たにつくり出したり……。すべて自分のためにしていることですが、本気でやっていくとそれが誰かのためになることもある。
気軽に、だけど「やるならば、本気でまちを楽しみたい」とか「今よりも面白いことをしたい」と思っている人は、マーケットのつくりかたを通して地域のことを知る、関わる機会にもなると思います。ぜひ参加をお待ちしています!
今回実施の「マーケットの学校」は講義編と実践編に分かれています。
講義編は、全5回の実施です。
ゲスト講師に、「マーケットでまちを変える: 人が集まる公共空間のつくり方」の著書で、自身が住んでいる埼玉県志木市でマーケット企画・運営も行っている鈴木美央(すずきみお)さんをお迎えして、各種講義を実施していきます。
<「マーケットの学校」を通して得られるもの>
・マーケットのつくりかた
・地域の人や商店とのコミュニケーションのとりかた
・北本市のまち、人の雰囲気を知れる
<こんな人におすすめ!>
・暮らす地域の魅力を生かした活動をしたい!
・「マーケット」づくりに興味がある!
・地域イベントをつくること(出店者あるいは運営)に興味関心はあるが、どうやったらいいかわからない!
・北本市ってどんなところか知りたい!
・一歩踏み出して何かをしたいけど、何ができるかを模索している!
<講義編:全5回>
【第 1 回】 9/5(土)13:30~16:00
改めてマーケットって何なのか考えてみよう「マーケットの話」
【第 2 回】 9/19(土)13:30~16:00
実際にやっている人に話を聞いてみよう「マーケット運営者座談会」
【第 3 回】 10/3(土)13:30~16:30
駅前広場のマーケットってどうだろう「マーケットを妄想する1 北本駅前西口広場 編」
【第 4 回】 10/17(土)13:30~16:30
直売所で農家さんと考えてみよう「マーケットを妄想する2 四季のめぐみマルシェ 編」
【第 5 回】 11/8(日)13:30~16:30
シャッター商店街でマーケットをするなら「マーケットを妄想する3 北本団地商店街 編」
<ゲスト講師プロフィール>
<定員>
現地参加:12名【原則、第1回~第5回までの全回参加できる方】
オンライン:定員なし【第1回、第2回のみ】
<参加費>
無償
<お申込み>
「現地参加」または「オンライン配信参加」のどちらかでご参加いただくことができます。各申し込みフォームよりお申し込みください。
【現地参加申し込みフォーム】
http://www.city.kitamoto.saitama.jp/form/inquiryPC/Init.do?inquiryId=161
【オンライン配信参加申し込みフォーム】
http://www.city.kitamoto.saitama.jp/form/inquiryPC/Init.do?inquiryId=162
全5回の講義では、コロナ禍以降の新しい日常の中において「マーケット」の可能性についてゲスト講師とともに参加者同士で考えていく時間をつくっていきます。
さらに講義編の後半の日程では、北本市の各所でフィールドワークも実施。雑木林や駅広場などを実際に見て、関わる方や出店希望者等と意見交換を行いながら、実践編に向けて北本市でどのようなマーケットが行えるのかを考えていきます。
Editor's Note
「日常的に営みがあることに地域の価値がある」という江澤さんの言葉が印象的でした。
コロナ禍で私たちは直接会わずにコミュニケーションをとる機会が増えましたが、その分、「同じときに同じ場所にいる価値」はこれまで以上に高まり、大切にされていくのではないでしょうか。
私たちはどこかでいつも「つながり」を意識していると思います。地域にもさまざまなつながり方がある中で、マーケットは人同士だけでないゆるやかなつながりを体感できるからこそ、人々を魅了するのかもしれません。
「マーケットの学校」に参加される方たちが、どのような思いを抱いて北本市でマーケットを実現していくのか、今から楽しみです。
ASUKA KUSANO
草野 明日香