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LOCAL LETTER

マーケットやマルシェは5つのステートメントで「暮らしの中で」楽しみをつくる

FEB. 02

KITAMOTO, SAITAMA

前略、実現したいこと、描いていることを言葉にしたいアナタへ

地域の中でより豊かに暮らす人を増やすことを目指し、「暮らしの中で楽しみをつくる」をキーワードに、埼玉県北本市で『マーケット』をテーマとした実践的な講義「マーケットの学校」。講義編のラストとなる第5回目が開催されました。

これまでの講義でゲスト講師の話やディスカッション、フィールドワークを通じて、マーケットを深堀りしてきました。最終回は、「マーケットの学校」のステートメント(声明)をワークショップ形式で考えるとともに、実践編に向けた案内がありました。講義編の最終回の様子をレポートします。

<講義編:全5回>
【第 1 回】 9/5(土)13:30~16:00
 改めてマーケットって何なのか考えてみよう「マーケットの話」
【第 2 回】 9/19(土)13:30~16:00
 実際にやっている人に話を聞いてみよう「マーケット運営者座談会」
【第 3 回】 10/3(土)13:30~16:30
 駅前広場のマーケットってどうだろう「マーケットを妄想する1 北本駅前西口広場 編」
  →<変更>北本でマーケットをつくるうえでどうしたらいいかをディスカッション
【第 4 回】 10/17(土)13:30~16:30
 北本のマーケットのフィールドを見にいこう【北本フィールドツアー】
【第 5 回】 11/8(日)13:30~16:30
 マーケットを妄想する3「北本でのマーケットの実現に向けて」

マーケットを実施する前に、マーケットをやる意味や意義を「言語化」しておく

最終回となった講義編の第5回目は、これまで全体の進行を務めてきた観光協会の江澤さん、そして毎回マーケットの価値を実体験とともに楽しく伝えてくれるゲスト講師の鈴木さんによるこれまでの講義の振り返りからスタートしました。

「マーケットの学校」では、マーケットの価値や自分の実現したいマーケットを考える時間を大切にするため、当初予定していた講義編のスケジュールを一部変更しながら、参加者と北本市、そして講師陣がそれぞれにある伝えたいことや得たいものを意識した講義となりました。みんなにとって「いいな」と思う形を追求していこうと柔軟に対応ができるということ自体、北本市の魅力がすでに表れているのではないかと感じます。

江澤さんはこの日のゴールを参加者に伝えます。「講義を通して見えてきた北本市のマーケットのキーワードになりそうな要素を整理して、ステートメント(声明、宣言)として形づくっていこうと思います」。

これは、どのようなマーケットを実施するかを考えるときに、立ち返ることができる「言葉」をつくるということです。

さらに鈴木さんが「文章や言葉で『こんなマーケットが良いマーケットだ』という考えや価値観を共有できるようにすると、マーケットを開催する人たちにとって、このまちでマーケットをやる意味や意義を考えるベースになります。そして、こうした考え方が共有されていくことで、文化になっていくのではないかなと思うんです」と、ステートメント(声明、宣言)を作成する大切さを話します。

「マーケットの学校」が宣言する、5つのステートメント

 ステートメントを考えるにあたって、みんなで外に出て芝生の上でディスカッションを行いました。もはや当たり前のようになってきましたが、実際に芝生に座って話しながら考える、というのも北本のマーケットを考える上で重要なスタイルの一つです。

「マーケットの学校」では一人一人がどのようなことを目指し、何を大切にしているのかを話し合い、自分の意見を人に伝えること自体をも、学んできました。そしてマーケットという場について考えることが、北本市の魅力を知るきっかけになったり、実際にマーケットが実践の場になって、北本市で暮らす楽しみや喜びになるであろうことを、共有してきました。

この学びをマーケットの形として実現するために、事前に講師陣や北本市の職員たちが出した宣言は、5つ。

  1. 小さいニーズに確実に答える
  2. もともとあるもの、いるひとに目を向ける
  3. ボーダーをひかない
  4. 生態系をつくりだす
  5. 神話を信じるように、地域生活にファンタジーをつくる

今回は5つの宣言の中から参加者が「マーケットをする上で最も大切にしたい宣言」や「自身のステートメントにも共通や共感ができる宣言」を選択し、各自が選んだ宣言ごとのグループに分かれて「なぜそのステートメントを選択したのか」、自分たちの考えを交えながらディスカッションをした後、意見をシェアしていきました。 

1. 小さいニーズに確実に答える

このステートメントを選んだ参加者は、金銭的な報酬だけでなく、どんなに小さな対象でも他人に喜んでもらえることや、自分がその場にいる価値を実感できるハードルの低さが、マーケットの魅力であると考えているようです。

  • 無償ボランティアは継続できないというのはあるが、実費程度を徴収して得意なこと好きなことを届ける場とすれば、参加したい人はいるのではないか。
  • 農家で行き場をなくしたB級、C級品を回収して町会で配布するような場ができるのではないか。
  • 高齢化が進む北本団地の高層階の空き部屋を活用して、若者が自由に使えるようにすれば地域の貢献にもつながる。

まちの中にあるニーズに、できる範囲で応えていくというのもマーケットだからできることで、市場の原理では実現できないものでも、仮設だからできることもあり、可能性が拡がってくるのではないか、といった意見が出ました。

講師の鈴木さんも「自分がそこにいることを実感し、生きている証明につながるというのもマーケットのひとつの意義だと思います」と話します。

江澤さんは「お金以外のものに還元できる仕組みがマーケットにはあると思いますし、それを活かせるといいですよね。あるものを活かしながら、いろんな軸で見れるようになると、さまざまな価値を見出せるようになる」と改めてマーケットの面白さを話します。

2. もともとあるもの、いるひとに目を向ける

北本市にすでにある資源や魅力についてディスカッションする中で、参加者から出された言葉で、“都会と田舎の間にあるような地域” であることや、生活環境を “中自然” という言葉を使って北本市の魅力を表現している場面がありました。

これには、鈴木さんも反応。「 “程よく” というのが北本市には合っていますよね。程よい『中自然』が魅力だからこそ、あえて拡大を狙わないというのも北本市のまちの魅力を維持するうえで一つの選択肢になりますね」と言います。

一方で、“残すこと” と “拡げていくこと”のバランスに難しさを感じている人たちも多いようです。

誰かにとっては「残したい」と思うものでも、別の誰かにとってみれば必ずしも必要ではないと思うモノやコトがあるからです。だからこそ、「体感することが重要」と鈴木さんはいいます。

体感することによって、理解につながりますよね。そして言語化されていくという流れは(残すことや拡げることの判断として)、いいのではないかと思います」と鈴木さんは体験することの大切さを話します。

実体験によってそれまで見えていなかったことが見えるようになる。こうした日々の繰り返しの中で、その場にある大切な何かが残っていくのかもしれません。

江澤さんは「まちづくり」でなく「まちのこし」という言葉を使って、北本市のまちに既にある資源や価値を話しながら、「残したいものをどのようにすれば残していけるのか」をこれからも考えていきたいと話します。

3. ボーダーをひかない

これは講義編の当初から江澤さんが何度も参加者に伝えてきた言葉です。マーケットのカタチはさまざま。必ずしも作り込まれた場所でなくていいし、ステップアップしていかなければならないものでもなく、やりたい人が実際にやってみるということを気軽にできる場としています。

ボーダーを引かないことで、マーケットの主催者、出店者、参加者のそれぞれの立場で可能性を拡げたり、価値を高めていくことができる「寛容さ」があるものがマーケットであり、北本市はじめ江澤さんや鈴木さんが、マーケットに可能性を感じる一つの理由です。

それでも、「できること、できないことはある」と鈴木さんは改めて参加者に伝えます。どのような場所でも実施でき、どんな人でも参加しやすいのがマーケットの良さではあるものの、そこには誰もが活用できるようにするためのルールがあります

「禁止のベクトルを強く働かせるのは望ましくないが、不寛容にならざるを得ない部分もあることを理解しながら、誰もが参加できるものをつくるということを念頭に置いておくとよいと思います」と鈴木さんは話します。

4. 生態系をつくりだす

色々な人が行き交うマーケットという場では、つながりやきっかけが生まれやすく、新しい出会いや関係性に繋がりやすいという特徴があります。その場にいけば何か面白いこと(化学反応)が起きるかもしれないというワクワク感を「生態系をつくりだす」場と定義しました。

参加者のターゲット層を絞ったマーケットでもいいし、老若男女が訪れるマーケットでもいい。ボーダーを引かないというのもステートメントとして挙げられていましたが、多種多様なマーケットがあることで、「ここに来れば、こんな人やこんなお店がいる」という特徴が出てきます。それが、各々の心地よい場になり、定着し、さらには交流が生まれて、また新しいマーケットが誕生するといった循環を生みます

そんな中で、「マーケットの伝え方次第では、新たな人が訪れにくい環境をつくりあげてしまう可能性もあるのではないか」と問いかける参加者もいました。

誰かのための場として固定してしまうよりも、マーケットの良さを活かして、多様な人たちが行き来できる場が増えていくと、よりマーケットの価値が際立っていきそうです。

5. 神話を信じるように、地域生活にファンタジーをつくる

これは、グループディスカッションでも人気のあったステートメントの一つです。参加者からは次のような意見が出ました。

  • 場所に対する意味づけがあるのも、ある種のファンタジーではないか。
  • 沿線の人たちがファンタジーなのかもしれない。
  • 三重県四日市市のように、まちで行われてきた市(いち)がまちの名前になった例もある。名前をつけたら物語が始まるのかもしれない。
  • 思い出の積み重ねが、物語になっていく。

同じステートメントでも、実際に意見を交わしてみると視点がさまざまで面白い。

他にも、妖怪というキーワードを軸に話が盛り上がりました。「妖怪というのは、人々の規範意識から生まれているのではないか」という問いかけから、妖怪のようなファンタジーが今も盛り上がるのは、実際に妖怪にまつわる舞台となる場所があるからこそ、愛着がわいて伝え継がれ、話が育っていったのではないかという考察がありました。

そう考えると「10年後にたとえ同じマーケットが開催されていなかったとしても、その場所でマーケットが行われていたことを伝えるというのが愛なのかもしれない」と妖怪の話をマーケットに当てはめて考えを述べた鈴木さん。

マーケットに参加する人たちの思いを積み重ねていくことが、結果的に地域の物語となり北本市への愛着やブランドにつながっていくのではないかという話が共有されました。

全講義を終えて

講義編の最終回とは思えないほど、お茶をしながら会話を楽しむようにゆったりとした講義の時間でした。これも「マーケットの学校」を企画・運営した北本市や観光協会の江澤さん、講師の鈴木さんや参加者のみなさんがつくりあげてきた雰囲気なのでしょう。そして、それこそがマーケットの魅力であり、北本市のポテンシャルなのだろうと改めて感じさせてくれました。

最後は、実践編のお知らせや北本市で今後行われる企画などが発表され、「名残惜しいですが……」という鈴木さんの言葉に導かれながら、和やかなムードのまま「マーケットの学校」講義編が終了。

いよいよ実践編では、マーケットを通してさまざまな思いを実現させていくことになります。北本市でどんな面白いことが起こるのか、楽しみですね。

Editor's Note

編集後記

なんとなく「いいな」と思える場や事柄が持続していくと、誰かにとって一つの楽しみや喜びになっていき、目的や価値につながっていくのだと、講義を通して感じました。マーケットを切り口に、今回つながった人たちの縁がこれからも続いていく。そんなワクワク感を抱いた状態で最終回が終わるという、なかなか体感できない楽しい講義の終わりでした。今後は実践編がスタートしますが、これからも、北本市、そして北本に住まう人、関わる人たちの動きに目が離せなくなりそうです。

これからも「マーケットの学校」の応援をよろしくお願いします!

これからも「マーケットの学校」の応援をよろしくお願いします!

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